第32話 サイモンさん

「おはよう、ミーチェ」


 昨晩は何事もなく、朝を迎えた……そう言えば、ジークは紳士でした。


「ジーク、おはよう……」


 朝食を食べ、買い出しに向かう。市場では、野菜と調味料を買った。


 昼からは、テントに置くトイレを買いに行く。これは、テントをもう少し大きくして、設置する。後ろにいるジークの顔は、見ないでおく。


 夕食後、部屋で明日から入るダンジョンの予定。20階から入って、20~18階辺りで肉狩りをすることに決まりました。


「ミーチェ、おやすみ」


 微笑みながら、ジークが言う。


 なんか、ジークの眼差しが、だんだん優しくなってきてる気がする…。私もにっこり微笑んで、


「うん。ジーク、おやすみ」



 翌朝、送迎馬車に向かうと、サイモンさんがいた。


「よう! ジーク、ミーチェ見つけた! これも、何かの縁だ! 一緒に行こうぜ!」


 なんて、なんて強引な……


「お前……待っていたのか?」


 ジークが、眉間にしわを寄せて言う。


「偶然だ!! 偶然! で、何階から入るんだ?」


 サイモンさん、さっき見つけた! って言ってたじゃないですか。待っていたんですか? ここで?


 ジークが、ため息を漏らす。


「はぁ~。ミーチェ、こいつ絶対ついてくる気だ……」


 待ち伏せしてる位だしね……


「サイモンさん、そうなんですか?」

「おう! 一緒に行くぞ」


 ジークが、苦悶している……


「サイモン、お前の取り分は2割。それでいいなら……」

「おう! 俺だけなら2割も出んからな。十分だ!」


 サイモンさんの幸運って、25ないのね……


「ミーチェ、予定変更するよ。20階から入って、25階のワープ取るからね。サイモンは、ランクAだから……はぁ……」


 ジーク、なんか頑張って……

 馬車に乗り込み、ダンジョン入口へ向かう。


 ダンジョンの入口で、あの騎士さんがサイモンさんに声をかけた。


「おや? サイモンじゃないか、いつ帰って来たんだ?」

「おう! クライブ。2~3日前だ」


 サイモンさんは、警備の青髪の騎士さんと知り合いみたいです。クライブさんと言うそうです。


「今日は1人か?」

「いや、こいつらと入る」


 そう言って、サイモンさんは、私達を見て指さした。


「えっ! そこは2人パーティーだろ? いや、お前……お邪魔虫だよ。空気読めよ……」


 クライブさん、もっと言ってやってください。


「うるさい! こっちのジークは、元パーティーメンバーなんだよ!」


 クライブさんは、呆れた顔でサイモンさんを見ていた。ジークは、諦めた顔をしている……



 クリスタルで20階に飛び、強化魔法をかける。


「サイモン。ランクEのミーチェに合わせて進むからね」


 ジークの……声のトーンが低いです……


「えっ! ミーチェ、ランクEだったか?」

「はい」


 前に、挨拶した時に言いましたよ。ランクAのサイモンさんに比べたら、弱々ですよ……


「ランクEかあ~、可愛いな!」


 えっ!? サイモンさん? 頭の中で『弱い=可愛い』の変換してます?


「サイモン! それと、肉落とすヤツは、僕が殴ってからだからね」


 ジークが、サイモンに念を押す。


「おう! 全部、お前が殴ってから倒すよ! 幸運のジークより、先に手は出さねえ!!」


 なんか、かっこいいセリフに聞こえるんだけど……


「ミーチェ。ミーチェは、好きにしていいよ」


 うぅ、ジークが、優しい……サイモンさんには、厳しいけど……


「はい。え~っと、好きにって……」


 それから、1時間もかからずに21階へと進んだ。


「ミーチェ、ここからは魔物が強くなるから、気をつけてね。それと、強化魔法は、なるべく切らさないようにね」

「はい。ジーク、了解です」


 うわぁ~、ここからだ。強化魔法をかけ、感知魔法を確認する。ドキドキしてきた……


「おい、ジーク! ここからは、犬が数匹セットで出て来るんだが、どうする?」

「複数出てきたら、僕は右から倒すから、サイモンは左から頼むね。ミーチェは、好きにしていいからね」

「おう! 任せとけ!」

「はい……」


 好きに、って言われても、どうすればいいの? 幸運低めのサイモンさんの獲物に、軽く魔法打つとか? でも、サイモンさんの前で魔石100%って、出せないよね。難しい……


 21~22階は、ロックリザード・ガルム・ライカンスロープが、出て来る。岩山のロックリザードは弱いが、ここのはランクBの強さ。


「ミーチェ、ライカンスロープを見つけたら。雷魔法を先に打ってね」

「はい」

「うん? ミーチェは、魔法も打てるのか?」


 返事を返そうとしたら、感知魔法に反応が出た。


「えっと、あ! ジーク、ガルムが向かってくる。右から2匹」

「分かった!」

「えっ!? 索敵スキルも持ってるのか! すっげえな!」


 サイモンさんの反応に調子が狂う。そして、返事をする前に感知魔法に、魔物が引っかかる。魔物が多い……


「ジーク! ライカンスロープが来る! 左から出て来るよ」


 ライカンスロープが、のっそりと現れた。私達を見つけると、咆哮を上げて襲ってきた。全身真っ黒で、毛むくじゃらの狼男……


『グルルル、ガアァオオオォォ!!』


「ミーチェ、雷打って」

「はい!」


 ジークの声に反応して、すぐに電撃魔法を撃つ。それと同時に、ジークが突っ込む。続いて、サイモンさんも突っ込み、あっという間に倒す。


「凄い! ランクBの魔物を、あっという間に倒してる」

「それより、ドロップ半端ねえな! 帰還石まで、出やがる!」


 サイモンさんは、かなりご機嫌です。


 23階に降りる階段で、お昼休憩する。バッグに入ってる屋台料理を5人前ほど出す。足りるかな?


「えっ、マジかよ! ミーチェもアイテムバック持ってるのか! すっげえランクEだなあ!」

「サイモン。ミーチェの凄さや可愛さは、他言無用だからな!」

「お? おう……」


 ジ、ジーク……恥ずかしいんですが……記憶戻ってないのよね?



 食事が終わり、23階へと進む。ここから、オーガが出て来る。階段を、降り切る前に強化魔法をかける。


「しかし、ドロップ凄げえな! ミーチェの幸運も俺より高そうだな」

「サイモン、お前が低いんだよ……」

「ワハハ! ジーク、その通りだがな! それより、ジーク! お前強くなったなー!」


 サイモンさんは、ポジティブです。


 食後、25階のワープクリスタルまで、3時間かからずに着きました。いつもより魔物の数は多かったけど、余裕がありましたよ。


「ミーチェ、サイモン戻るよ」

「もう、戻るのか? 先に進まないのか?」

「サイモン。ランクEのミーチェに、無理をさせる気はないよ。ミーチェの防御力、低いんだ。サイモン、ここで別れてもいいけど?」

「戻るよ! 悪い、ミーチェ。お前、ランクEだったな」

「新人ですみません……」


 クライブさんが、日帰りか? と聞いて来た。ジークが、お邪魔虫が一緒だと落ち着かないからと言う。そりゃあそうだなと、クライブさん。


 ギルドで換金してもらう。今日もスキンヘッドの職員さん、テッドさんと言うそうです。


「おう! お前さんか! VIPとギルドカード預かる。おお? サイモンも一緒なのか! 冬はこっちにいるのか?」

「ああ! テッド。しばらく、いるつもりだ! 後から、メンバーも数人来る。また、飲もうぜ!」

「おう! ワハハ! 賑やかになるな!」 


 テッドさんとサイモンさんは、飲み仲間なのね。


「なあジーク、帰還石は売らないで、回してくれると助かるんだが……」

「分かったサイモン。帰還石は、売らないで分けるよ」


 魔石と帰還石以外のアイテムを換金した。全部で、金貨226枚と銀貨1枚でした。


「すっげーな! 3人で……」

「サイモン! うるさい! 喋るなって言ってるだろう?」


 ジークが、サイモンの言葉を遮るように言う。そりゃあ、幸運持ちをバラされたら、困るよね……変なのに絡まれたり……


「あっ、ああ。スマン!」


 サイモンさんの取り分は、金貨68枚と帰還石3個となりました。サイモンさん、ウッホー! って小躍りしています。1日の稼ぎとしては、かなり良い金額ですよね。


 サイモンさんは、ギルドの酒場に直行。なので、サイモンさんとはここで別れました。


「サイモンさん、ありがとうございました」

「おお! ミーチェは、ジークと違って可愛いやつだな!またな!」

「サイモン、又はないよ。お疲れ……」


 ジークは冷たいヤツだ!と言うサイモンさんをスルーして、ギルドを出る。ジークは、いつもより疲れた顔をしてる……


「ミーチェ、疲れたね。宿に戻ってゆっくりしよう」

「うん。ジーク、そうしようね」


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