第66話 処刑開始の合図

「マルセルやっぱりお前なのか」




 懐かしい感じがしたもんな。ってことは、さっきのえろしーん。最初からこいつだったのか。


 脇腹からナイフが引き抜かれる。ナイフの柄の部分までしっかり刺してくれたおかげで、血が飛び散るじゃないか。




 ナイフを握ったメラニーの切断された腕が、そのまま浮遊してメラニーの骨の見える切断面へと戻っていく。


 反対の切断された腕も、綺麗にくっついて、縫い目も残らず神経まで縫い合わせられているようだ。


 回復魔法大の縫合魔法。間違いなくマルセルのなせる技だ。




 さっき俺が殴って飛んで行った歯も戻ってきて、口を開けたメラニーの歯茎に収まる。


 内臓破裂魔法で凹ませた腹も、何ごともなかったように美しいし、骨折した膝の骨はごきごきと音を立てて元の正常な位置に戻る。


 いかにも、姫という優しい表情で化粧直しでもするように、口元の血反吐を小指で拭っている。


 身体が巨乳ビキニ踊り子のメラニーって、不釣り合いだな。




「じゃあメラニーは?」


「あははは。私もいるよ。つまりさ、私は自分の身体を貸してるんだよね。高額でね。マルセルから身体を貸してほしいって頼まれてさ。多少お前から痛い目に遭わされても、もらえる額が大きいとやっぱり引き受けちゃうよね?」


 金で俺の処刑を耐えていたのか。相変わらず考え方がむかつくな。


「ねぇキーレ。あたしがメラニーの身体まで借りて会いに来たっていうのに、さっきみたいな遊びじゃなくて、本気で抱いてくれないのかしら?」


「そうかよ、マルセル。俺をこけにするんだったら、またその生意気でわがままな唇、噛み切ってやるよ」




 マルセルに手を伸ばそうとして左腕が上がらないことに気づいた。


 小刻みに震えている。原因は腕じゃない。


 膝をついてから石になったみたいに下腹部から下半身が動かない。


 さっき刺された脇腹を見ると血が止まっている。


 痛みは感じなくなっていたが冷気を感じる。


 これって、刺すことが目的じゃなかったのか。




「あら、気づいた? 氷結魔法による束縛魔法よ。しかも体内からの束縛。あんたは外からの束縛魔法効かないから、内臓をじかに凍らせてあげたの。寒くなったら言って。いつでもかわいがってあげるから」




 そう言ってマルセルは俺の腹を裸足で蹴った。


 おっと、そんなことしていいのか。


 はしたないお姫様になったもんだ。




 俺はメラニーをもてあそぶつもりだったんだ。もう我慢ならないな。




 お前は俺に手を出し過ぎた。お遊びはもう終わりだ。




 死ぬのはメラニー一人だけかもしれないが処刑サクろうか。今ならマルセルもメラニーを通して痛みを感じ取れるだろうしな。




「キーレ、口からよだれが出てるわよ。あんたのその苦しむ顔、見たらいけなかったみたいで心苦しいわ」


「マルセル、まさか知らないのか?」


 俺のよだれが垂れるのは苦しいからじゃないってこと、まさか知らないなんてな。


 これは、生贄サクリファイスを食らう前の興奮。処刑サクリファイス開始の合図。




 俺は氷結魔法で体内の束縛魔法がかかっている腹の部位を、かすかに動く指で切断する。腸まで到達する深い傷。



 ここまでさせられたからには、これの倍以上の処刑サクリファイスを楽しんでもらおうじゃないか。




「俺は喜びに満ちて震えてるんだ。これは生贄を求めて俺が処刑サクる合図だ」



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