第64話 処刑前の夜遊び

 火吹き芸に使う棒や、ナイフと的など大道芸人らしい散らかったテント。




 俺は今、イケオジに化けているけどメラニーは俺を子ども扱いするように茶髪をくしゃくしゃにでてくれる。あんまり激しくやるから、俺のよだれが垂れる口に入るからやめて欲しいんだけど。どうせ化けるなら地毛に近い黒髪にでもしてくればよかったかな。




 この女の身体の上で這っていると身体がだるくなってきた。抱き寄せてもらっているが、顔が肉に埋もれてくる。長く熱い抱擁で、どんなえろしーんを迎えたのかよく思い出せないな。


 彼女の腹の上にだらだらと舌を伸ばす。こんな切ない気持ちにさせてくれたのはマルセル以来だった。




 服を着て帰ろうとするとメラニーが俺を呼び止める。慌てているように見えたのだろうか。そんな、つもりはない。一通り楽しんだのでこれから改めてこの女を処刑するのだ。


 そのために服はちゃんと着ないと。俺は化けたまま人を処刑サクるのは、卑怯だと思っているぞ。勇者として俺はこいつを処刑するのだから、俺の姿を見せつけてやらないとな。




「背伸びしすぎよ。とても大人には思えなかったわね、元勇者のキーレ」




 おっと、ばれてるな。




「何だよ。気づいてて、つき合ってたのかよ」


 俺はもう嫌になって髪を振る。理髪店の変身魔法は、嫌になったら髪をばさばさ振ると元に戻る。俺の銀髪を認めてメラニーはあはははと声を出して笑う。


「抱いたことある身体はサイズで分かるって。変身しててもね。お前って身体のライン細いし。それにね、ほかの大人のいい男はみんな私の売りのこの胸に真っ先に飛び込むの。お前は足から来るでしょ? お前はいつも私の胸は最後」




 えー、そんな分析結果あるの? まあ流石にばれるのも無理はないか。俺ってもしかして足フェチなのかもな。


「今夜はもう遅いから泊まっていってもいいよ?」


 メラニーどこまでが冗談なのか分からないのは相変わらずだな。不思議とこの女とは一度も喧嘩はおろか言い争いの類もしたことがない。




「馬鹿言うなよ。処刑前に遊んでやっただけだ」


「でも、もうテントの外にテンドロン国の兵士がうじゃうじゃ来てるみたいよ? このまま私といた方が幸せになれるかもね」


 なるほど、確かに乙女のテントの外は兵士だらけになっている。テンドロン国は騎馬騎士団の国だから、みんな馬に乗って待ち構えているな。




「あいつら趣味悪いな。俺がもっと激しくお前といちゃついてたら、覗き見してるってことだろ?」


「あはは、私とずっと遊んでくれるの? お前、包囲されてるのに?」




 だいたい、これは俺のハンデ。メラニーは所詮踊り子、呪いのブレスレットがなければ俺はあのときこいつに捕まったりもしなかった。そうだな。




 あのときのお礼に両腕を切断してやろうか。俺は再び勇者としてメラニーのベッドに寄りそう。メラニーは踊り子でありながら聖母のような優しさを持っていたからな、あのシスタークロエも見習ってほしいぐらいに。ただ、金で取引相手を変えるだけだ。




 俺はメラニーの両手を握る。お、まだ逃げないんだな。


「俺がこの腕にどんな思いを抱いているか知っているか?」



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