第57話 ストーカーの信念

「変わり身か。俺は自身の姿を、今必要とする理想の姿に変えることはあっても、信念は変えたつもりはない」




「ストーカーに信念とか貫かれても困るし」




「俺の過去を愚弄するか。ゲス勇者が」




 そう言って、クロエもといクロードはリディをきつく握り締める。




「っはぅ」

 今のはリディの精一杯の悲鳴。




「だから、それをやめろって言ってるだろ! 聞こえないのか?」




 クロードは肩を怒らせた俺に向かって、したり顔で告げる。




「ゲス勇者の僅かな良心。握りつぶすのは実に勿体ない。このピクシー妖精は預からせてもらう」




 

 このままきびすを返そうとするとはいい度胸だな。俺の前に姿をさらして? おまけにリディを奪ってだと? 




 俺はいつでも獲物は歓迎ウェルカムなんだ。お前の命が欲しい。ルスティコルスのブーツで飛ぶ。




「背後から襲うとは卑怯者に成り下がったなゲス勇者」




 俺のメスの指が届くというときになって、クロードはリディを握っていない方の腕で俺の手首をつかんだ。




 そして、その握った手で呪文が唱えられる。

「骨折魔法!」




 嘘だろ! 俺しか使えない人体破壊魔法だぞ!



 ボキッ!

 いとも簡単に折れる俺の骨の音。こんなあっけなく左手首を折られた。続けて肩まで走るバリバリというひびの音。

「っつ!」




 複雑骨折にされる前に自ら折れた左手をつかんで、肘のところで自分で折る。骨折魔法はつかまれたところから、接する面の骨を全て折るからな。


 自分で折ったのは、はじめてだけど。




「まだまだ」

 顔面をわしづかみにされて、地面に叩きつけられる。骨折魔法なしでも馬鹿力だ。




「っが」




 舐めプレイなんかでやられてたまるかよ。俺は額から垂れてきて頬を伝った自分の血を舐める。


 俺の血は俺自身の力になる。バフってやつ。こいつの命、今から終わらせてやるよ。




 すぐに立ち上がって殴りかかる。拳に内臓破裂魔法をまとわせて殴る。が、こいつの身のこなしは軽く、まさかの鎧を着たままでのバック宙で逃げられた。




「っち。どこで覚えたんだよ。骨折魔法」


「俺は長年、お前を追ってきたからな。骨折魔法の記された魔導書はお前が手に入れてから盗み見ていたのだ。何本でも折ってやれるぞ」




 何その、人のケータイ盗み見る女みたいなの。やっぱりストーカーだこいつは。



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