第20話 森のエルフのアデーラ
アデーラはドロテの次に出会ったんだ。だって彼女はリフニア国に一番近い森にいたから。
マルセルはまだ出会ってなかったから、ずっとアデーラの回復魔法、初級に頼りっきりだった。
彼女の白い髪と俺の銀髪を比べてみてお互いに
「私が一番美人?」
俺はいつも当然のように答えたんだ。
「もちろん。君が一番美人に決まってる。世界で一番」
ドロテがいつもそっぽ向いてたっけな。でも、それはドロテの優しさだった。だって、俺たちってあっという間に恋仲になったからな。
で、マルセルもノスリンジア国に寄ったときに屋敷で寝取ったら、サクっと仲間になった。
このことは俺とマルセルの秘密。
女三人と野宿したり宿に泊まったりするうちに俺は思ったんだ。マルセルが一番小さくてかわいいって。
結果的に俺はアデーラをふることになった。
そういえば、森のエルフが何でアデーラ一人だったのかな。なぜ彼女だけが一人残って川を守ってたのかなって。ちゃんと聞いたことなかった。
でも、アデーラの本性を知ってから分かったんだ。アデーラがほかのエルフ全てを追い出した。
「私が一番きれいで、一番美人。ブサイクには消えてもらおうと思ったから」そう言っていた気がする。
アデーラは確かに美人で、彼女は嘘つきで、傲慢だった。そう、特に注視する点は嘘つきなところ。
魔王を討伐して、各国に寄ったり、リフニア国内でも色々祝ってもらったりして、それぞれが帰路についた頃の話。
各々の道に別れたけど、マルセルとアデーラだけはずっとついてきてくれていた。
あの日はアデーラがエリク王子から話があるとかで、宮殿に来るように俺に言ってきた。
廊下を歩くときにふと、アデーラが確認するように告げた。
「勇者と一緒に冒険したのは、勇者が私のことを一番の美人と言ってくれたからなの、分かってる?」
「うん。確かに勧誘したとき言ったけど」
このときアデーラはすでに俺のことをキーレと呼んでくれなくなっていた。魔王を討伐した瞬間から彼女の態度は一変していた。
でも、ずっとついてくるのは俺に未練があるからかなって、アデーラの扱いに困ってずっと放置していた。
「でも、あんたは、マルセルと寝た! マルセルと寝たんだ!」
「わ、悪かったと思うけど俺はもうマルセルのことしか考えられないんだ」
冒険ってやっぱり辛いことの方も結構多かったし、でも女癖の悪い俺でもマルセルだけは許してくれるんだ、俺のことを。
アデーラは俺に愛せ、愛せとしつこいんだ。そうじゃないって、愛は一方通行じゃないんだって。
ぼそっとごめんと言おうと思っているとアデーラは俺のことをあざ笑って、ヘイブン宮殿の王室に招き入れたんだ。
「ま、許してあげる」
これが嘘だということはあのときの俺は全く予期していなかった。アデーラと二人きりでエリク王子の待つ王室へ向かう。
すると、王子の部屋にはすでにマルセルが王子と肩を並べてはにかんでいる。
「私がマルセルをエリク王子に紹介してあげたの」
「え、どういうこと?」
「だって、勇者の心に私はもういないんでしょ?」アデーラの声には寂しさは一つも感じられなかった。俺を刺すような声だ。
え、つまりどういうこと?
「なあ、マルセル? 王子とどうなってんの?」
マルセルは俺の目の前でエリク王子と長い接吻をした。
一分ほどに感じられたそれは、二人の唇が離れた瞬間、地獄のような沈黙を生んだ。
真昼だと言うのに日が落ちたかと思うほど、視界が暗く霞んだ。
マルセルの代わりにエリク王子は、俺に照れ笑いをする。
「いやー、マルセルに告白したんだ。そしたら何日かして、承諾をもらえてね。勇者キーレに真っ先に報告しないといけないなと思って。君たちは共に旅した仲間だ。僕よりつき合いが長い。当然祝ってくれるよね?」
告白? 王子は俺とマルセルが恋仲だったこと知ってるよな?
よ、横取りじゃないか。いや、待て。さっきアデーラが紹介したとか言ったような。アデーラを振り返るとアデーラは片目を歪めて醜く笑っている。
「エリク王子に相談したの。私は私のことを眼中に入れてくれない勇者なんかどうでもいいって。そしたら、王子は王子でマルセルと二人きりになりたいってずっと思ってたと言うのよ。不思議よね。勇者一人を除いて、三人の意見が一致したの。勇者が邪魔だって」
そう言ってエリク王子と裏で組んでいたアデーラは、俺を取り押さえるべくリフニア国の衛兵に命令する。
「勇者を地下牢へ連れて行きなさい」
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