第18話 王国会議

 リフニア国ヘイブン宮殿内部、議事堂。




 リフニア国の国王オーバンは、もう会議をはじめていた。僕という王子を差し置いて?



 

 お付きの者に手押し車椅子に乗せられてやってきた僕を見て、父上は話を遮られたというようなあからさまな顔をする。


「もう横になっていなくていいのかエリク」


「父上、僕の心配はいりません」


 父上は鼻を鳴らす。僕が勇者を拷問したのが全ての始まりだと、腹を立てているわけだ。


「それよりも、早くあの情欲まみれのうじ虫勇者を捕まえて下さい」


 勇者の処分についての会議に僕をのけ者にするなんて言語道断だ。


「私の手抜かりだと言うのか? 詠唱団えいしょうだんはこの国の最高戦力の一つだぞ。それに言葉に気をつけろ。隣国ノスリンジアのエルマー王もお見えになっておるのだぞ」




 ふん。隣国が何だ。マルセルの兄という騎士団長でも勇者に敗れたではないか。


 父上だって、勇者のことは快く思っていられるはずがないというのに。


 何を遠回しに口を慎めと言っているのか。




「父上も、本当は勇者を拷問したかった一人では?」




 はっきり言って僕の拷問趣味は、父上からの遺伝である。


 母上を夜な夜な折檻せっかんしていたのを、子供時代から見てきた。


 それである日、母上は拷問部屋につれていかれてから出て来なくなった。


 あ、母上死んだなと、幼心に思ったことがある。


「エリク、口を閉じられないのか」


 僕が今度は鼻を鳴らしてやる番だ。どうやら、隣国の幹部たちも何のやり取りかと不穏な雰囲気を醸し出す。


 まあ、明るい話題など何一つない。


 両国共に王国騎士団長ヴィクトルとグスタフを失ったのだ。


 両国の最高戦力を削られるという大きな痛手だ。


「失礼しました。ですが、ノスリンジアの皆様方も僕抜きで話し合っておられたみたいですが、勇者の狼藉ろうぜきの数々について、苛立ちの色が伺えますが?」


 父上は僕がノスリンジア国を手玉に取ろうとしていることに気づいて僕を睨む。


「そちらの騎士団長であるグスタフも勇者により処刑されたとか。僕もマルセル姫の実兄を失い、胸が痛みます」


 ノスリンジア国の幹部が僕に冷ややかな目線を送って首を突っ込んできた。


「そちらの詠唱団は、グスタフがやられたときに何もしなかったということはないのか?」


 これには僕より先に父上が抗議した。




せんの作戦は先ほども説明した通りだ。勇者に空間隔離魔法は効かん。よって束縛魔法もまず効かないと思った方がよいだろう。生け捕りは非常に困難な状況であった」




 父上、上手いこと説明してくれたものだ。そうとも、勇者を殺してもよかったんだ。だけど、僕はあのうじ虫勇者を飼いたいんだ。




 拷問し続けて飼いならしたいんだよ、父上。だって、この僕にした仕打ち。とんでもないことじゃないか。呪い続けてやってもいい。




 オペラ座から地下牢でのできごとの間、父上は急用で他国を訪問していて不在だった。父上も留守中に国家が揺らぐようなできごとが立て続けに起こって、ご立腹だった。


 父上も勇者を拷問したいに違いない。




 でも、父上、僕の方が先なんだよ。僕こそが勇者を拷問していい唯一の人物なんだよ。



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