第11話 真っ二つ

 ドロテは前髪をはらりと垂らす。額の汗で髪がくっついている。


 己の砕けてあらぬ方向に開放された指を凝視して、信じられないとう思いと痛みを歯で噛みしめてくれる。




「もっと味わってくれよな。左手対、左手になりそうだよな。あ、蹴ってくれてもいいけど。遠慮するなって言ったろ?」




 彼女は利き腕の右手をかばうように引っ込めた。次は左腕を折ろうか。いや、蹴りかな。どっちだろ。どっちにしても折り放題だな。繰り出されたらつかむ。それだけで簡単な処刑が完了する。




 彼女は長い足のリーチを活かしての足払いを放った。無様にこけてやるつもりはないので、軽く飛び越える。と、そこへ俺が着地するのを読んでの素早いアッパーカット。




 おおお、顎を反らして仰け反って避ける。




 あー楽しい。踊ってるみたいだ。


 両手まで広げてやった。彼女はがらんどうの俺の胴を殴るか? それともまた蹴るか?


 あれ、何でわざわざ天井までジャンプするの? 


 ちょっと格好いいじゃん。俺より格好つけんなよ。




 俺は女神フロラ様にかっこつけてこいって言われてるの! 




 女神様じきじきにかっこつけてこいって言われてるんだぞ?




煉獄れんごくきゃく!」


 うーん。確かに聞いたことない技名。


 魔王を倒した後も修行を怠らなかったわけか。まあ、いいや。とりあえず左手で受けてみよう。って熱! 


 魔法使ってきてるなこれ。誠実さはどこに行った? 




 もう勝ちにこだわってきてるな。


「遠慮はやめたってか」


「貴様が外道だからな!」




「俺のことは好きに呼べばいいさ。でも、自分はどうなんだ? 俺からすればお前も十分裏切り者だぞ!」




 受け止めた足をつかんだまま魔力をこめる。


 はい、足も太ももから足首、足の指先まで複雑骨折っと。


 俺につかまれたら、もう終わりなんだよ。


 またまた、サックサクだな。




 もう、肉でしか繋がってないだろう? 立てるか? まだ立てるか?




 ドロテは地獄でしか聞こえないような悲鳴を上げた。はっきり言って惚れ惚れするような悲鳴だ。マルセルよりかわいいかも。


「……はぁ……はぁ」


 なんだよ。もう虫の息かよ。あっけなさすぎる。俺はそんなやわな格闘家を魔王戦に連れて行ったつもりはないぞ。




 ずっと素敵だと思っていたドロテの腹筋に左手を当てる。骨折魔法を内臓に当てると、どうなるかは俺も知らない。楽しみだ。




 彼女の腹筋は力が抜けてしまってとても柔らかかった。骨がない部分に骨折魔法を使うと、簡単に人体はよじれるみたいだ。


 彼女の身体は折り畳みベッドみたいに真っ二つに折れた。




「サクサク、処刑サクリファイスっと」



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