第10話 ハンデ、骨折魔法しか使わない

 ドロテがかっと怒りで目を見開く。蝋燭の明かりしかない薄暗い地下牢でも見てとれる。




「キーレ、黙って聞いていれば。その舐めた態度取れなくしてやる」




「名前で呼んでくれるようになったか? どんどん親しくなるみたいで嬉しいね。昔のよしみで拷問はしないでやるよ。その代わりサクッと処刑サクリファイスな」




 俺は左手を開いてみせた。俺の利き腕、実は左。これ豆知識な。


「ハンデだ。左手しか使わない。使う魔法は【骨折魔法】ただ一つ。武器は、生き返ってからは何一つ持ち合わせてない。魔導書は教科書ってことで勘弁な。俺高校生だし」




「ならば、私も魔法は使わない」


「遠慮しちゃう? 魔法使ってくれてもいいけど」


 そうだ、この誠実さが好きだったんだよ。



 一番長く旅した仲間だ。まさか裏切るなんて思わないよな。ドロテだけでも俺の味方のままでいて欲しかったってのに。


 はっきり言って、さっきの「キーレ」呼びは嬉しかったりした。


 でも、俺は優しいから誰か一人を仲間はずれにはしないんだ。


 仲間は全員、仲良く処刑サクってやる。




 華奢なドロテの蹴りは今も変わらず、全体重を乗せて重さを感じる素晴らしいものだ。俺はかがんで、それを避ける。


 仮に、風の魔法でも足にまとわせておけば俺の頬に傷の一つでもつけられたかもしれないのにな。




「避けられたか。でも。仲間だったころの私ではない!」


「成長してんの?」


 俺は彼女の素敵な腹筋を見て微笑んだ。肉体美いいよな。テレビでしか腹筋割れてるお姉さんなんて見たことなかったしな。




 え、パンチ? 細い腕だけど、血管が浮き出るぐらい力が込められている。


 ドロテなら岩も砕けるし、きっと日本ならコンクリに穴も空く。これわざと食らってみよっかな。


 今の俺ならまあ痛いかで済みそうだし。でも、やっぱやめた。俺は他人が痛がるところを見たいんだ。




「他人の不幸は蜜の味っと」




 左手で軽く受け止める。ドロテの鬼のパンチは腕を引くようにして受け止めるのがコツだ。


 触れた瞬間、ドロテの親指にひびが入る音がする。


 続いて握りしめた拳の、人差し指、中指、薬指、小指と全ての第二関節の折れる音。


 ポップコーンみたいに弾ける音。




「ひぎゃああああああ!」




 ドロテはそうやって叫ぶのか。ふーん。もっと痛めつけよう。



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