第1話 異邦人のかぼちゃと哀愁のタンポポ(2/2)
「――なるほど、異世界から……ですか」
謎の男は一瞬目を見開くも、小人の言葉に耳を傾け続けた。かぼちゃの話を聞き終えると、紳士は黙ってしまった。
――やっぱり変な奴だと思われたに決まってる。
かぼちゃ頭は
「……分かりました。あなたの話を信じましょう」
「ほ、本当に!? 信じてくれるんですか!?」
「ええ、もちろん。彼という前例がなければ、あなたの話は信じきれなかったかもしれませんが」
かぼちゃ頭は一瞬、言葉を失った。
自分の眉唾物のような話を真正面から受け止めてくれたという事実もそうだが、それ以上の事実を知って驚きを隠せない。
「もしかして、おれ以外にも異世界から来た奴がいる……?」
「はい。お察しの通り、つい数日前に一人、異世界から来た少年がいます。もっとも、彼はあなたのように記憶を失ったりしてませんでしたがね」
「その異世界から来た人、名前とか、どこから来たとか言ってませんでしたか!?」
「……いいえ」と、紳士は首を振る。
「顔とかどんな特徴だったかとか、覚えてませんか?」
かぼちゃ頭の矢継ぎ早な質問に対し、謎の男は再び
「残念ながら詳細までは……。フードを被って隠してましたから、顔は良く見えませんでした。すみません、お役に立てず」
男性は申し訳なさそうに眉根を寄せ、ぺこりと頭を下げる。
「いえ、気にしないでください! おれ以外にも異世界から来た人がいるって聞けて、少し安心しました」
収穫がなかったのは確かに残念だったが、自分以外にも同様の状況に置かれた人間がいる事実にかぼちゃ頭は
かぼちゃは大きな頭を下げ、見ず知らずの紳士に礼を言う。
「あの、ありがとうございました! おれ、そいつを探しに行ってきます!」
かぼちゃ頭は猪が如く、一目散に駆け出した。すると後ろから、男性の声が木霊する。
「ちょっと待ってくださーい! 彼を探すと言っても、どこに行く気ですー? 当てはあるんですかー?」
「あっ……」
異邦人は自分以外にもいると知るや否や、居ても立っても居られなくなったかぼちゃ頭は駆け出してしまった。もう一人の異世界人がどこにいるのか、何も知らないまま。
狭間の世界でも、彼は謎の存在【
「ふっ、せっかちな人ですね」
男性は立ち上がると、かぼちゃ頭の
「いいでしょう。これも何かの縁。少しの間、お付き合いましょう。見知らぬ場所を
「あっ、ありがとうございます!!」
心強い味方ができた。
かぼちゃ頭は嬉しさのあまり両手で包むようにして握手を交わす。紳士は異形頭の異邦人の行動に少し驚くも、裏表のない感情豊かな様にふっと笑みを零す。
「では、行きましょうか」
そう言うと、謎の紳士はメリーゴーランドの横を通り過ぎ、いずこへと歩き始めた。心優しい男性の後を、少年はトテトテと追う。
「……で、どこに向かってるんです?」
「このメインストリートを抜けた先に、『魔女の休息』という小さな店があります。そこの店主はリムブルック1の魔女ですから、きっと力になってくれますよ。僕も丁度、その店の主に用があるのでね」
男性が指さした先には、天蓋が施された屋内スペースがあった。大通りを様々な家や店が立ち並んでおり、遊園地でいう土産物コーナーに近い場所なのかもしれない。
指し示された方向へかぼちゃ頭がまじまじと視線を向けると、謎の紳士は「あっ」と何かを思い出し右手を胸に当てて一礼した。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕はダン、しがない運び屋です」
「えっと、おれは……」
名を名乗ろうにも、名乗る名前が思い出せない。
小さなかぼちゃ頭のまごつく様を見て、運び屋は再び頭を下げた。
「失礼。ご自分の名前を思い出せないんでしたね……。うーん、ですが名無しというのも不便ですし……」
ダンは物憂げな表情を浮かべる。
哀愁の運び屋の言う通り、少しの間だけ道中を共にする仲だと言えども、呼び方が「あなた」のままで名前がないと話し辛い。
異形頭の小人もどうしたものかと思案する。そして
「あの、変な事を言うかもしれませんが、もしよかったら名前を付けてくれませんか?」
予想外の言葉が飛び出たためか、ダンは左目を丸くする。
「えっ、僕がですか?」
「はい! 異世界に来て初めて会った人ですから。これも何かの縁ってことで」
ダンが道中共にすると言った時の台詞を、小人は真似て返す。そんなかぼちゃ頭を見たダンは、ふっと笑みを浮かべた。
「では僭越ながら……」
かぼちゃ頭の提案を、運び屋の男性は了承する。少しの間思い悩んだ後、彼は口を開いた。
「――ペポ、というのはどうでしょう? あなたの愛らしい容姿に相応しいかと思いますが……」
気に入ってくれるだろうか……。ダンの不安が、少年にも伝わってくる。
――ペポ。
狭間の世界で見た自分の姿は、まるでオモチャのようだった。ダンの言う通り、今の自分の姿に『ペポ』という名前はぴったりだ。
かぼちゃの小人は特徴的な頭を2度降り、彼のアイデアを肯定した。
「ペポ――いいですね! ありがとうございます、ダンさん!!」
初めて自分の名を呼ばれたダンは一瞬肩をびくりと震わせる。そして、仔犬を連想させるかぼちゃ頭の様子を見て小さく笑った。
「はっはは。気に入ってくれたようで何よりです。では、よろしくお願いしますね、ペポさん」
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