5 .マモルの恋人を名乗る
吸血鬼とは名ばかりの存在。だが現在マモルの学校の校門前で、仁王立ちしている探偵服を身に纏った女は、似て非なるものを述べた。
『半吸血鬼』と。
吸血鬼とは違う。だがそれは、始まりは吸血鬼であるとの証明。異なる言葉で言うならば、混じっている。
そもそもそんな空想じみた話を現代日本に住んでいる者は信じる筈が無い。
ただ一人、マモルを除いては―――。
「お前―――」
「―――マモルくん?」
不意をつかれたような表情になったマモルはそのまま声のする後方へ振り向く。声質から考えて、それはたった一人の者としか考えれなかった。
マモルの考えはあっさり的中する。後ろに立ったいたのは、『保健室へ行く』と先ほど教室から逃げたユミだった。
息遣い、靴がまだ中履きである事から推測して、慌ててやって来たのだろう。
「ユミ………。保健室に行ってたんじゃなかったのか?」
「そんな事より! その人、誰? まさか………、と、と、と、………友達じゃないよね?」
不安な声を含ませながらユミは黄緑の髪の女、アミを指さす。その指は震えていて、目は様々な場所へと動く。
その理由はたった一つ。マモルに友達ができているかもしれないという不安だった。
何故そこまでもマモルに友達ができるのを嫌がるのはこれまでのマモルとユミの関係を遡る方が早い。
早いがしかし、全てを語るとなると長くなる。なので端的に、二言で表すならば、マモルはユミ以外に友達は居ない。ユミもマモル以外に友達は居ない。
それこそが、友達が増えることの不安へと繋がる物だった。
だがそれとは別に、もう一つユミの中には不安の種が存在した。それは、相手が女であること。
「こいつは………」
「友達じゃないよー」
マモルが説明に困っていると、後ろから友達であることを否定する声が飛んでくる。それに一度ホッとしたのだろう。ユミの元から不安な眼差しが一気に消える。
「良かっ―――」
「―――あ! 友達じゃないけど………、彼女だよ。マモルのね」
突然の裏切りに、ユミは吐き出そうとしていた安堵のため息を呑み込みそのまま固まる。そのままマモルが後ろを振り返ると、ピースをしながら悪びれた様子も見せないアミが立っていた。
「マモル……くん……。うそ……だよね………?」
「…………」
そのまま声のするユミの方へ振り返ったが、マモルは一言も弁解せず、更には目線を反らして時が過ぎるのを静かに待った。
「うそ……うそ……うそ……。そんなの嘘! マモルくん違うよね? 違うって言ってよ………。なんで……黙ったままなの………?」
「…………」
嘘であると、お願いするようにその言葉を求めるユミの瞳からは水滴がこぼれ落ちようとしていた。
目線を反らしていても、視野がまあまあ広い人間にはその光景は容易に目視できる。マモルでさえもそれは可能だった。
だがしかし、マモルは沈黙を貫いた。たとえ軽蔑されようと、人の尊厳を根本から否定されようと、もう永遠に大嫌いと言われようと、マモルは沈黙をし続けるだろう。
―――何故なら、それが今できるマモルにとっての最善の策だからだ。
「ばか―――!」
ユミの絞り出す怒声と共に、空からは大粒の雨が降りかかる。その雨にユミが共鳴したのか、それともその雨がユミに共鳴したのか、それは定かではないが、ユミの目からは大粒の涙が流れ出した。
「マモルくんの………。ばかぁ!!」
再び言葉のナイフをマモルに突き刺し、ユミは逃げる様にマモルの体を突き飛ばし、校門から校外へ走って行ってしまった。
その姿は、絶望から逃げる姿。ただただ足が動く限り遠くへ行こうと、行き先が決まっていないと思わせる姿だった。
突き飛ばされたマモルは、そのまま地面に尻もちをつく。大粒の雨で濡れた地面は冷たく、まさにマモルの行動を表現している様だった。
「良かったのか? 今ので。きっと君は最善の策だかなんだか思って黙ってたんだろうが、実際最悪な結果になったぞ………」
「………適当に……、分析すんな。勝手に……、決めんな。今ので良かったんだよ………」
「そうか………。そうか………。そう言ってくれるなら私も心が痛まなくて済むよ。君の彼女としてな」
「はあ? 何言ってんだ! いつ? どこで? お前なんかと恋人になったてぇ?」
適当な事を吐かすアミにマモルは否定的かつ質問的に問いただす。
そもそも、アミとマモルは出会って一週間の関係である。
初めて出会ったのは、今日から一週間前。秋であるのに夏の様に暑い日の午後2時頃だった。
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