第4話 新生活(2)


「カメグラマーケは売り上げ目標達成、120%止まりとなっています。日本商品をアメリカでバズらせる企画がいくつか当たったおかげで様々な会社、代理店から案件が降ってきている状態です」


 俺の発表が終わると各部の部長たちがパラパラと拍手をした。社長の評価も上々だが、ぶっちゃけもっと人手があれば回せたというのが本当のところである。


「では、今週も頑張りましょう」


 おじさんたちのやる気のない挨拶の中、俺は会議室を出た。本社に来るのはこの部長会議の時くらいでほとんどがサテライトオフィスでの仕事。なんというか本社の方が新鮮だったりする。

 ユリカちゃんが季節に合わせて本社のインテリアを飾り付けているからまるで違う会社に来ているようだった。


「藤城さん、お疲れ様です!」


 ユリカちゃんはまるで俺を待ち伏せしていたみたいに(多分していたんだろう)声をかけて来た。俺はちらりと壁にかかった時計を見る。

 そうか、お昼の時間だよな。忙しすぎて忘れていたけど、会議がある日は一緒にお弁当を食べる約束をしていたじゃないか。


「あぁ、間宮さん、お疲れ様です」


 社内では一応こうやって呼び合っている。「ゆうくん」なんて呼ばれたら恥ずかしすぎるし……。


「お昼いかがですか? 最近の広報の進捗も聞いて欲しくて」


 ちょっと頰を赤く染めて見上げて来るユリカちゃん。周りの人間には気づかれていないだろうか、一緒に出社したじゃないか……。ユリカちゃんが会議室にお弁当を持ち込めない俺の代わりに二人分のお弁当を運んでくれていたのに忘れるなんて、さすがによくないな、俺。

 

「いいっすね。何食べます……」


「お、いいところに」


 俺たちの会話を遮って入って来たのは社長だった。そして、社長の後ろには長身のわけわかんないくらい顔のいい男の子。


「間宮さん、この前話していた後輩の三木隼人(みき はやと)だ。明日からインターンとして入社してもらう。一応社会人の年齢なんだけどモデルをしていたから社会人経験はなし。間宮さんも先輩デビューってことでさ。で、隼人、こっちは藤城部長だ。元エンジニアだけど広報のアドバイザー、そんで今はカメグラマーケを取り仕切ってる才能あるやつだ。何かわからないことがあれば間宮さんか藤城にきくといい」


 三木隼人はぺこりと頭を下げた。爽やかな好青年、まるで赤ちゃんみたいなつるりとした肌にぱっちりしたタレ目、細いくせに鎖骨から肩にかけてはしっかりしていそうな骨格でスーツがよく似合っていた。


「三木隼人です。よろしくお願いします!」


 そんでもって声もいいと来た。

 俺は恐る恐るユリカちゃんの方を見る。ユリカちゃんは特に興味はなさそうだが笑顔で三木に挨拶をし、そわそわしていた。多分、腹が減っているんだろう。


「あ、そうそう。藤城、カメグラマーケだけどさ隼人の友達の女の子をリファラルできそうだから木内さんと面接の予定あけとけ」


***


「お互い、新人さん入って来て大変になるねぇ」


 ユリカちゃんと俺は会社から少し歩いたところにある小さな公園でスープジャー弁当を広げていた。中身は好みのスープとオートミール。

 俺はトマトバジルスープで、ユリカちゃんは和風卵スープ。保温性のスープジャーに暖かいスープとオートミールを入れておくとランチする頃にはふやふやの食べごろになって最高に美味しい。

 それに、カロリーも抑えられし腹持ちもいい。


「まぁ、俺んところは中途採用だし大丈夫だけどさ」


「大丈夫じゃないもん」


 ユリカちゃんはぷくっと頰を膨らませるとちょっと甘い声を出した。


「新しい子、女の子って言ってた!」


「いや、インターンに何人か男の子いるけどうちの部署ほぼ女性っすよ?」


「でも……なんかやだ」


 バタバタと足を揺らして駄々をこねるユリカちゃん。もしかして、嫉妬してる……? とか?

 俺は一旦冷静になって


「どうして?」


 と聞いてみた。ユリカちゃんはスープジャーを膝の上に静かにおくと


「最近、本社の女の子たちが藤城部長が最近あかぬけてきていいなって言ってたの。だから、その……やだ」


 うーん、語彙力!

 正直、俺の方が心配なんですけどね???

 とはいえ、俺がこんな風に彼女に対して三木への嫉妬心をあらわにしてしまったらユリカちゃんが仕事をやりづらくなるかもしれない。俺としては何よりもユリカちゃんを信じているし、ユリカちゃんが広報の仕事で成長したいと思っている以上、俺のせいでそれを邪魔したくない。


「大丈夫」


「むぅ……信じますけどぉ……女の方が誘惑してきたらやだし」


 ブツブツ文句を言いながらもユリカちゃんはスープを食い、そしてデトックスウォーターを飲み干す。


「大丈夫、ユリカちゃんより可愛い女性は存在しないと思ってるんで」


「ゆうくん……ほんと?」


「はい、ほんとっすよ」


「わかったぁ……。信じる」


 そんないい雰囲気の中、俺のスマホが社内チャット受信の通知音を立てた。俺は「なんだろう?」とチャットを立ち上げた。


「なぁに?」


「噂をすれば、三木くんのリファラルの子の情報だね」


 チャットの相手は木内さんだった。どうやら一次面接を担当する彼女の方へ先に面接相手の情報が伝わったようだ。普段は物静かな木内さんがチャットを送って来るんだからとんでもない人材ってことは両方の意味で確かだろう。

 悪いニュースでないことを祈りながら俺はスクロールしていく。


【すごいですよ! リファラルの子、トップオブミス女子大生を2年連続受賞している子でカメグラマーとしても有名な子です!】


 俺は名前を見てぎょっとした。


——相馬梨花子


「えっ、これって3年目でアナウンサーを電撃引退して超有名代理店に入ったとか噂されていた人ですよね……?」


 ユリカちゃんの顔がみるみる真っ青になっていく。


「やっぱり……すぐにお婿さんにきてぇぇぇ!」



***


プロローグをお読みいただきありがとうございました!

前作でいただいたアドバイスやリクエストなどを考慮し、少しずついい物語をかけていけたらな〜と思っています!

カクヨムコン6ではラブコメ部門ポイントでは2位だったもののあまり良い結果ではなくとても悔しい思いをしたので本作からは書籍化を意識しながら頑張っていきたいと思います。

応援コメントやブックマーク等励みになっています。今後も本作をお楽しみいただけますと幸いです。

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