65.炎の精霊ちゃん

 小さな女の子という表現が適切だった。

 ただしこれを聞いて想像するとしら、師匠くらいの身長の女の子だろう。

 師匠はちっちゃくて可愛い。

 それは当たり前のことで、今さら説明する必要はない。


「ここがどこかわかってるの? わからずに来たなら相当の馬鹿ね」


 しかしここで小ささについて再認識が必要だ。

 師匠は小さい。

 同年代の女の子、年下よりも明らかに慎重で劣っている。

 それを可愛いと思うし、僕は師匠の長所だと思っているだけだが。

 当の本人、師匠自身は低身長を気にしている。

 自分がいつまで経っても大人にみられないのは身長の所為なんじゃないかと。

 毎朝背が伸びるように大きく背伸びしたり、成長に良いと言われる食べ物や飲み物をいっぱい取り入れている。

 苦手な癖に無理して食べている姿は可愛い。

 小さい身体のままで良いと思うほどに可愛い。

 でもコンプレックスに思っているなら変化もあって良いと思っていた。

 それが今、解決した気がする。


「師匠」

「フレイ?」

「師匠はちっちゃくないですよ!」

「い、いきなりどうし……って何と比べてるのさ!」


 プンプン怒る師匠も可愛い。

 と、茶番はここまでにして改めて彼女に目を向けよう。

 明らかに人間ではなく、大きさは手のひらに乗るくらい。

 背中からは羽が生えているし、そもそも宙に浮いているわけだが……


「やっぱり精霊なのか?」

「あったり前じゃない。見てわかんないとか頭大丈夫?」

「うっ……」


 めちゃくちゃ生意気だな。

 小さいけどこいつは可愛くない……かもしれない。

 師匠を見習え。


「もしかしてフィア?」

「そうよ! って何であたしの名前……ってまさか、アルセリア?」

「やーっぱりそうだ! フィアだフィア! 久しぶりだねー!」


 子供みたいにはしゃぎだす師匠。

 嬉しそうな笑顔を見せたと思ったら、僕たちの間を抜けて彼女の近付き、思いっきり抱き着いた。


「さっきのイフリートをみてもしかしてって思ったんだ~ また会えるなんて奇跡だよぉ~」

「ちょっ、くっつくんじゃないわよ鬱陶しい! あんたこそ何で生きてんのよ!」


 彼女は頬をスリスリする師匠を鬱陶しがる。

 僕ならスリスリしかえすというのに勿体ない。

 

「え、というか師匠の知り合いですか?」

「あ、うん! この子はフィア! ファルムが契約していた炎の精霊だよ!」

「賢者様の? 炎の賢者様って精霊使いだったんですか?」

「うん。旅の途中に出会って契約したんだ」


 炎の賢者が精霊使いだったという記述は残されていない。

 実際に会っていた師匠だからこそわかる情報だ。


「それはそうと師匠」

「ん?」

「そろそろ話したほうが良いと思いますよ?」

「へ?」


 師匠は気づいていなかった。

 僕と話している間もずっと彼女を抱きしめていたこと。

 それによって呼吸が止められているという事実に。

 師匠は慌てて彼女を離す。


「ぷっはー!」 

「わ、わわわごめんフィア!」

「あたしを殺す気!? あんたのそういう所が嫌だって何度も言ってるでしょ!」

「ご、ごめんなさい……」


 しょぼんとする師匠にフィアは続けて罵声を浴びせる。


「大体あんた冷たすぎるのよ! あたしには近づくなっていっつも言ってるでしょ!」

「う、う……」

「というか何で生きてるわけ!? もう千年は経ってるのよ? どこのババアよ!」

「ば、ババアって……」


 ババアと言われたのは初めてだっただろう。

 さすがに師匠も落ち込んでしまう。

 今のには僕もちょっとカチンときた。


「おいお前、師匠の悪口は僕が許さないぞ」

「は? 何よあんた? 師匠?」

「そうだ。彼女は僕の師匠で世界一可愛くて大切な婚約者だ。これ以上馬鹿にするなら、いくら賢者様の知り合いだからって容赦しないぞ」

「へぇ~ 良い度胸ね……人間の分際で」


 僕の威嚇にも怯むことなく、フィアは怖い顔を見せる。

 周囲の空気が熱せられ、自然と汗が流れだす。

 対抗するように僕も魔力を放出して、周囲の熱を冷やしていく。

 ゴゴゴという音がなっているような緊張感が漂う中、落ち込んでいた師匠が正気に戻って僕らを仲裁する。


「ま、待った待った! 二人とも落ち着いて!」

「でも師匠、このちっこいの生意気ですよ」

「そこが可愛いんだって! ってそうじゃなくて落ち着いてフレイ。私たちは喧嘩しに来たんじゃないでしょ?」

「……それもそうでしたね。冷静を欠きました」


 僕としたことがつい頭に血が昇ってしまったようだ。

 炎の精霊を前にして熱くなるなんて、いい様に操られたようで腹立たしいが。


「非礼をお詫びします」

「ふんっ! あたしは寛大だから許してあげるわ。でも次はないわよ」

「そうですね。次は……ないでしょうね」


 次があったら粉々にしてやるからな。


「何その顔、全然反省してないでしょ」

「いいから! それよりフィア、本当に久しぶり! 会えて嬉しい」

「……ふぅ、あたしは素直に驚いたわ。今の時代に知り合いと会うなんて」


 師匠は嬉しそうに笑い、フィアは呆れたように笑う。

 フィアも再会できたことには思う所がある様子で、悪態は付いていたものの悪い気はしていないみたいだ。

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