57.作戦会議
僕と師匠、それに兄さんたちが加わり、深夜の会合は続く。
時計の針は刻々と進んで、もうすぐ今日が終わる時間だ。
新しい明日が始まるように、僕たちも次の話を始める。
「僕たちの最終目標は二つ。魔神の殲滅と、エクトスの打倒」
僕はそう言って師匠にアイコンタクトは図る。
頷いた師匠が続きを話す。
「知っての通り、魔神はまだ健在だよ。フレイが追い詰めてくれたけど、核である心臓部はエクトスに回収されてしまったからね。すぐには無理でも同じ方法をとれば、炎の魔神は復活できる」
「そこんところなんだがな? 魔神はまぁ別として、そのエクトスって奴は誰なんだ?」
質問してきたのはシルバ兄さんだ。
グレー兄さんも、エクトスのことは知らない。
知っているのは師匠と、師匠から話を聞いた僕だけだが。
「師匠」
「そうだね。協力してもらうなら、二人にも話したほうが良さそうだ」
そう言って師匠は二人にもエクトスのことを話した。
僕の時より手短に、要点だけをまとめて。
十分くらいで話し終わり、二人は腕を組んで納得する。
「なるほどな。ただ者じゃねぇっていうのはわかってたが、裏切者の賢者とは……」
「現代には残っていない歴史の裏側……いや、闇というべきか」
「まさしくその通りだよ。彼は私たちが残してしまった闇そのものだ。だから今度こそ、私の手で終わらせる」
師匠は強く握る拳を作る。
震えるその手を、僕は優しく覆うように握る。
「僕たちの手で、ですよ。一緒に背負うって言ったじゃないですか」
「フレイ……うん。ありがとう」
僕たちは見つめ合う。
触れる手の温もりを感じながら。
夜の静けさも相まって、互いを余計に意識している。
いつのまならこのまま、と思うのだが生憎今夜は他の目がある。
「はぁ、お前らいつもそうなのか?」
「そうって?」
「……監視の子が言ってた意味がよくわかるぜ」
「まったくだ」
人前なのに平気でイチャつきやがって。
と、無言の視線で言われているような気がした。
特にグレー兄さんは厳しい目で師匠を見ていて、師匠も思わず僕の手から自分の手を引っ込める。
師匠は誤魔化す様に手をパタパタと振って、話を本筋に戻す。
「ま、まぁつまり、両方を何とかしないと問題は解決しないってことだよ」
「そうか? 今の話なら、エクトスって奴を止めれば魔神も止められるんじゃねーの? 復活方法を知ってるのはあいつだけなんだろ?」
「そうだね。そうだった……けど今はもう違う。王都で彼がわかりやすく見せつけちゃったから」
師匠の言葉にシルバ兄さんもハッと気づく。
魔神を復活させられること。
それすら知らなかった現代の人々が、目の前で見てしまった。
エクトスが王都で魔神を復活させたのは、この地がかつての戦場だったからじゃなくて、見せつけるためだと推測している。
「魔神は終わっていない……そう示すことで、あいつは自らの存在をアピールしていた。あれでエクトスの元に同じ思想を持つ者たちが集まるかもしれない」
「それが狙いか。だとしたらまんまとしてやられたって感じだが」
「……本当にね」
エクトスとしては王都を滅ぼしたかったのだろうけど、それは何とか阻止できた。
それが一番の戦果だと言えるだろう。
シルバ兄さんの疑問が片付いたタイミングで、今度はグレー兄さんが口を開く。
「それでも足りないのではないか?」
「グレー兄さん?」
「魔神は復活するのだろう? 再び倒したところで、問題を先延ばしにしているに過ぎん」
「そこは心配いらないよ」
グレー兄さんの疑問には師匠が答える。
「どういう意味だ?」
「対策があるんだ。倒した後に復活を阻止する方法がね」
「その方法は?」
「私たちの魔術、氷麗術式だよ」
師匠は自分の胸に手を当てて説明を続ける。
氷麗術式は師匠が作り上げた氷結魔術の極致。
その根本は、魔力を吸収することで半永久的に凍り続ける性質にある。
「永結、それがこの効果の名前なんだけど、元々この術式はね? 魔神を封じるために開発していたんだ。と言っても当時は達成できなかったし、復活の可能性も考慮していたわけじゃないんだけど」
師匠が氷麗術式を完成させたのは、戦いが終わった後だった。
復活する魔神を見越してとかではなく、単に自身の魔術探求のために。
「エクトスが持っていたのは魔神の心臓。あれも破壊したはずだったんだけど、長い時間をかけて復活したみたいだ。だから今度は、倒した後に心臓を凍結する。二度と復活できないよう何重にも、ちょうど私が凍っていたくらいかな?」
そう言って師匠は僕を見る。
師匠が眠っていた氷麗術式の氷は、同じ術式を極めないと触れることすらできなかった。
あれは師匠の魔力を時間をかけて吸い上げ、どんどん氷が分厚く強化されていった結果だった。
同様に魔神の心臓も凍結させ、魔力を吸って強化すれば封印はより強固になる。
「だから一度倒すか、エクトスから心臓を奪い取ればそれで解決するよ。術式の氷は発動者が仮に死んでも消えないから」
「なるほど。では次の問題は、居場所か」
「それはもういくつか検討はついているよ。フレイ、地図出して」
「はい」
僕は言われた通りに地図をテーブルの上に広げる。
広げられた地図に、師匠は六つの印をつける。
「ここがかつて、私たちが魔神と戦った場所だよ」
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