20.四六時中見張られるの?
審議をかけられた僕は、王国から監視対象に認定された。
具体的に何をされるのかわからないけど、一先ず監視員がいるという部屋に案内され、扉をノックする。
「どうぞ」
中から聞こえてきたのは女性の声だった。
僕が扉を開くと、そこには軽装の鎧を着た女性騎士が立っていた。
「初めまして、フレイという男はあなたですね」
「はい」
赤い髪のポニーテールに、同じ色の瞳。
騎士にしては細身で力があるようには見えない。
女性というのも意外だった。
僕の勝手な想像だけど、騎士になる人はもっとがっしりしている人ばかりかと。
それにしても目つき悪いな。
じっと僕のことを睨んでいる。
いや、監視員なんだし疑ってみているのか。
「私ジータと申します。本日付で、あなたの監視役に任命されました」
「はぁ……」
「これよりあなたの審議が決するまで、行動を監視させていただきますので、ご覚悟ください」
「覚悟って……」
嫌な言い方だな。
「その監視っていうのは、私生活をってことですか?」
「全てです」
「全て?」
「はい。私は陛下より、あなたに不審な動きがあれば即拘束するよう命じられております。ですので常に手が届く範囲にはいて頂きます」
「そ、それって……四六時中ずっと近くにいるってこと?」
「はい」
冗談だよね?
「トイレとか、シャワー時も?」
「必要であれば」
「……審議が決するまでって言ってたけど、具体的にはいつまで?」
「決まっておりません」
「じゃ、じゃあ結果が出るまでずっと……」
初めましての他人に、監視され続けるっていうのか?
勘弁してほしい。
「あの~ ちょっといいかな?」
「あなたは?」
「私はアルセリア。フレイの師匠だよ」
「師匠?」
ジータは師匠のことを上から下へ眺める。
「妹でないのですか?」
「違うよ! 私のほうがお姉さんなんだぞ!」
「……どう見ても子供にしかみえませんが?」
「何だとぉー!」
「師匠落ち着いてください。怒ると余計に子供っぽく見えますよ。何か聞きたいことがあったんじゃないんですか?」
まぁまぁと師匠を宥める。
「うぅ~ 仕方がない、ここは大人の対応を……あれ? フレイさっき子供って言わなかった?」
「言っていませんよ」
「そう? なら良いけど」
簡単に誤魔化せた。
「それでジータ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい。何でしょうか?」
「審議が決する、要するに疑いが晴れるまでだよね? どうすれば疑いは晴れるのかな?」
「明確な基準はありません。私が彼の生活を観察し、それを報告いたします。審議の結果は、報告を元に決められるでしょう」
「なるほど。つまり君が良い報告をすれば、早く疑いも晴れる可能性はあるのか」
「ゼロではないと申し上げておきます」
「ありがとう」
師匠が僕のほうを向く。
「そういうことだから、私たちは普通に生活していれば良いよ。何も悪いことなんてしていないのだからね」
「……そうですね」
師匠の言う通りだ。
僕らは何も、悪いことなんてしていない。
疑いも勝手な思い込みだ。
実際に傍で見てもらえば、俺がインチキもイカサマもしていないとわかるだろう。
ただ、僕にとっての問題はそこじゃない。
「では、あなた方の自宅に案内して頂けますか?」
「え、ほ、本当に来るんですね」
「はい」
僕は小さくため息をつき彼女を宿屋に案内する。
道中はずっと後ろから監視されていて、師匠との会話も少なかった。
本当は寄り道もしたかったのに残念だ。
もっと残念なのことは、これがいつまで続くかわからないということで……
「はぁ? フレイを監視? 生憎だけど、こいつは悪いことなんてしてないよ? あたしの娘も助けてくれた良い奴だ」
「それはあなた個人の見解です。私は公平な立場で、彼の行動を監視し報告する義務があります」
事情をセリアンナさんに説明すると、少し険悪な雰囲気になってしまった。
僕のために怒ってくれるのは嬉しいのだが、フローラもオドオドしているし、一先ず落ち着いてほしい。
「……まぁいいさ。隣の部屋でいいんだね?」
「はい」
「言っておくけど、うちに泊まるんならちゃんとウチのルールは守ってもらうよ? 勝手なことしたら叩き出すからね」
「わかりました」
セリアンナさんが僕のほうへこっそり言う。
「あんたも大変だねぇ」
「まったくです」
二階へ上がり、部屋の前に来る。
同じ部屋で生活する、とならなかっただけ安心だが……
「もし外出する際は、必ず私に一言声をかけてください。勝手に出かけた場合は報告させていただきますので」
「はいはい。そっちこそ、部屋に入るときはノックしてくださいよ」
「それくらいの礼儀はありますので悪しからず」
ガチャリと扉を開け、彼女が部屋に入ってく。
僕らも自分たちの部屋に入り、力を抜いてベッドに座り込んだ。
「はぁ……」
「そう落ち込むなよフレイ。すぐに疑いは晴れるさ」
「いや、でも……ずっとですよ? ずっと監視されるんですよ?」
「そうだけど、部屋は違うし」
「だとしてもすぐ隣にいるんです。さっきはああ言ってましたけど、何かあれば問答無用で部屋に入ってきますよ」
「まぁ、そうだろうね」
「それじゃ……それじゃ師匠とイチャイチャできないじゃないですか!」
「……やっぱり不満はそこなんだ」
師匠は呆れていたけど、僕にとっては大問題だ。
この幸せな生活を続けていくためにも、何とかして早く疑いを解かなければ。
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