王国に流れ着いた「ゾンビ使い」は、最強の軍勢を築く

横糸圭

プロローグ

 かつて、まだ人種差別というものが存在した時代。


 劣等種とさげすまれたヒューマンに、一人の男がいた。


 凡百なヒューマンの一人、《人種ヒューマンレース》最下位の取るに足らない一人。そう思われていた男だ。


 いや、そのヒューマンの中でも最底辺と言うべきか。


 幼少のころにねんごろになっていた幼馴染を攫われ、その《スキル》の性質から故郷の国を追い出され。金も地位も友も、何もかもを失った彼は底辺の中の底辺だ。


 しかし、そんな彼が伝承の中に名前が記載されているのはなぜか。


 ――なぜだろうなあ。


 うーん、わしにもわからんのじゃおほほほ。

 だって、目立った功績も書いておらんし、わしは彼の生きていたころを見たわけでもないからな。知るはずないんじゃボケい。


 だが、言い伝えなら山ほどあるぞ。


『死者の王』『一騎当千』なんていう大仰な異名があるかと思ったら、『一人で国を滅ぼした』とか『魔人を根絶やしにした』などという根も葉もない噂まで、わしらの時代にも残っている伝説がある。

 さすがに中には冗談だと思われるやつもあるのじゃが。


 つまり、結局のところ彼――ニコ・オルライトのことは、よくは分からんのだ。

 歴史なんてそんなもんじゃろ?


 だが、彼についての話をするときに絶対に出てくる単語がある。


『ゾンビ』


「ヴぁーヴぁー」としか言葉を発しない動くしかばね。腐臭がして見た目もグロテスクで、動きは鈍く思考は極めて弱い。

 力もなければ魔法を使うこともできない、ただ数だけ存在する『ゾンビ』

 それが、なぜか彼の伝承にはいつもついてまわっているのじゃ。


 しかも。


『飛行機よりも速い』『一体でもブルドーザー並みの怪力がある』とかいう、まあイメージのできるものもあれば、『ゾンビが空を飛んだ』『上級魔法を使った』『てかまず普通に美男美女だった』とかいう胡散臭い話があることまで。


 ――ゾンビが空を飛んだら、一体どうすればいいのじゃ。美男美女の死体って、もはやそれ不老不死の類では?


 まあいろいろツッコミどころがある「伝説」ではある。

 到底信じられるものではない。


 だが、それでも。唯一知られている彼の特徴を考えたら、その噂たちを笑って嘘だと断言することは難しいんじゃ。


 だって彼は――あの世界征服を成し遂げた『ロマンシュ王国』で、「最強」と謳われた男なのじゃから。







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