#27 閑話 アリサのグルメバトル(1)

 次の章に入る前に本筋とは関係ない閑話を数話だけ投稿します。

 

=====


 異世界に来て初めての外出に、あたしは浮かれていた。

 

 最近優しくなったケンゴと異世界旅行!

 何としてもこのチャンスをモノにしなければ!

 親友のカナとも一緒だし、最近はコータやダイチともいい感じだ。

 ずっと仲間になりたかった男子グループと一緒に異世界でお出かけ。

 テンションが上がるのも当たり前だって話だ。

 

 しかも、カインさんからお小遣いをもらってしまった!

 カインさんはダイチが前世で知り合いだった騎士のお兄さんだ。

 カッコいいんだけど、奥さんのソフィさんとラブラブすぎて、見ていると恥ずかしい。


 でもお小遣いは嬉しい! 

 こんなふうにお祭りの屋台みたいなのがいっぱい並んでいて買い食いできるなんて、なかなかないことだ。

 地元はものすごい田舎なので、駄菓子屋くらいしか寄るところがないのだ。

 買い食いなんてしたことがなかったあたしたちは大喜びで大通りを駆け回った。

 

 ▽


「……お好み焼き?」


 カナと二人で歩いていると、見覚えがあるような食べ物が売っていた。

 それはぱっと見、お好み焼きに見えた。

 広島風じゃなくて大阪風のほう。

 つまり、小麦粉の生地にキャベツを入れて混ぜて焼くアレだ。

 よくみれば、天かすや紅しょうがは入っていないし、具はキャベツっぽいけれど、肉は火を通したミンチっぽいのを混ぜていたり、色々とお好み焼きとは違う。

 大きさも手のひらサイズだ。


 異世界のお好み焼きがどんな味なのか気になったあたしは「いくらですか?」と聞いてみた。


「百スクードだぜ、嬢ちゃん」

「安っ」


 ダイチは1スクードがだいたい1円くらいだと言っていた。

 食べ物はうんと安いとも言っていたけれど、お好み焼きが百円とは恐れ入った。


「一枚ちょうだい!」

「あいよっ!」


 葉っぱを広げてポイと一枚入れ、手際よく折りたたんで食べ歩きできる形にしてくれる親父さん。

 この葉っぱは食べられるのだろうか。いや、多分これは包み紙のかわりと見た。


 一口齧ると、ちょっともそっとしていて、粉っぽくて、正直あんまり美味しくない。

 当たり前だけどダシが効いてないし、ちょっと硬い。

 ソフィさんが作るパンケーキはすごく美味しいので、粉の質が悪いとかそう言うことではないだろう。

 多分レシピがいまいちなのだ。


「……もうちょっと柔らかかったらな」


 ついボソッとつぶやいたら、親父さんの隣にいた男の子がそれを聞きつけて「何ぃ」と声を荒げた。

 しまった、作ってもらったものに文句をつけたみたいになってしまった。

 カナも「あちゃー」みたいな顔をしている。

 

 これはあたしが悪い。

 洋食屋で育ったあたしとしては、お店の味に文句をつけるような真似は本意ではない。

 すぐに「ごめんなさい」と頭を下げたが、男の子はムキになって、許してくれなかった。


「父ちゃんの作るお好み焼きは世界一なんだぞ!」

「あ、この世界でもお好み焼きっていうんだ」


 いや、多分「Translation(翻訳)」がそう訳しているだけだろう。


「だから悪かったわよ、謝ってるじゃん」

「柔らかかったら食べ歩けないだろ!」

「想像より硬くて驚いただけなんだってば。ちゃんと美味しいと思ってるから、そんなに怒らないでよ」

「おめぇ、こんな旨ぇもん食ったことねぇんだろ? どうせ親が料理下手だから味がわかんねんだ!」

「あ"あ"ん!?」


 思わずドスの効いた声が出た。

 

「ちょ、ちょっとアリサ、だめだよ!」

「親が何だって?!」

「な、何だよ……」


 ドスの効いたあたしの声に、少年の腰が引けている。


「あたし謝ったよね? しかも悪いのはあたしだけで、あたしの親は関係ないよね? なんでアンタに親の悪口を言われなきゃいけないの?」

「そ、そんなの先におめぇが父ちゃんの悪口を言ったから……」

「おっちゃんの悪口は言ってない。あたしの知ってるお好み焼きより硬かったから「もう少し柔らかかったらいいのに」とは言ったけれど。でもアンタはウチの親の料理を食べたこともないのに下手だと決めつけた。悪いのはどっち?」

「そんなのオメェに決まってんだろ!」

「はぁ……」


 あかん。

 ちょっとイラついてきてしもた。

 なのに、なぜか男の子じゃなくておっちゃんの方が謝ってきた。


「嬢ちゃん、これはうちのバカが悪い。すまんな」

「……おっちゃんはなんも悪ないわ。勝手な好みを口にしてしもたウチの方が悪い。でも、その子にも謝ってもらいたいわ」

「誰が謝るか!」

「コラ、カンジ! 嬢ちゃんの言ってることは筋が通っとる! しかもちゃんと謝ってくれとるだろうが! お前も頭を下げろ!」

「い、や、だー!」


 少年はガーっと歯を剥き出した。

 どうやら少年の名前はカンジというらしい。


「父ちゃんのお好み焼きは世界一なんだ! 俺は絶対に謝らねぇ!!」


 あー、こらあかんわ。

 筋が全く通らん。

 横でカナが袖を引っ張りながら涙目で止めてるし、これ以上騒ぎが大きくなるのも面倒や。


「もうええわ。喋るだけ無駄やな」

「なんだとー!?」

「親の悪口言われてめっちゃムカついてるけど、一方的に許したる、言ってんねん。おっちゃん、騒がしくしてごめんなー」

「い、いや、俺は構わんが……その」

「なんでオレが許してもらわないといけねぇんだよ! 悪いのはお前の方だろ!!」

「こら、カンジ! すまんな嬢ちゃん。こいつにはちゃんと筋の通しかたを教えとくから」

「こっちもごめん。あれは口に出すべきじゃなかったわ。気に障ってたらごめんな」

「こちらこそお騒がせしてすみません。ほらアリサ、行こう」


 カナに引っ張られてその場を後にしようとする。

 すると、後ろから怒鳴り声が。


「逃げんのかよっ!!」

「あ"あ"!?」


 カッチーン、と来て思わず振り返った。


「ちょ、ちょっとアリサ?!」


 カナが慌てているけれど、頭に血が昇ってしまった。

 カンジ少年も頭に血が昇っているようだ。


「俺は悪くねぇ! 悪いのはお前の方だ!」

「カンジッ!!」


 がツン、と親父さんが拳骨を落とすとカンジ少年は「ギャン!」と声を上げた。

 それでもめげずに怒鳴った。


「勝負しろっ!!」

「はぁ?!」

「お前、親父のお好み焼きより旨く作れんだろ!? ならオレと勝負しろ!」

「何言ってんねん! そんなこと一言も言ってへんやろ!」

「オレの父ちゃんは世界一のお好み焼き職人だから、オレも世界で二番目の職人なんだ! お前の親は料理が下手だから、お前も料理なんてできないんだろ!」

「………………!」


 怒りすぎて、頭にのぼっていた血がスーッと下がってきた。

 カナが「あー、これもう無理だ」などと呟いて顔を抑えている。

 親父さんはカンジ少年の首根っこを掴んで何やら怒鳴っているけれど、カンジ少年のほうはあたしに対して怒鳴り続けている。


 OK、わかった。

 わかったわ。

 ほな、受けたるわ。

 

 このクソボケ、とことんやったるわ。


「「お好み焼きデュエル、スタンバイ!!」」


=====


 蛇足。


「Translation(翻訳)」は使っている本人の知識に基づいて翻訳されます。

 そのため、お好み焼きに似た料理の場合、本来の名称を知っていればそれが、知らなければお好み焼きに翻訳されます。

 デュエルスタンバイも同じ理屈です。便利ですね。


 アリサは大阪出身です。

 大阪の洋食屋で働いていたお父さんが独立するため、アリサが小学校に上がるタイミングで地元に帰ってきた設定だったりします。

 そんな理由もあって、アリサは頭に血が昇ると大阪弁になります。


 大阪弁にも色々ありますが、キタとミナミでは随分雰囲気が違いますね。

 個人的には「じゃりン子チエ」のチエちゃんみたいなミナミ言葉が勢いもあって好みなのですが、文字にするとちょっと怖い雰囲気になってしまったため、キタに寄せてみました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る