#6

「とりあえず、持っていくのは懐中電灯と、飴と水筒?」

「待って、紐持ってきてるんだ。どっかにくくりつけて、それを持って歩けば迷わないでしょ」

「おおー、本格的だ」

「おおお」


 よし、探検だ!


 昨日進んだところまで行って、適当な大きな石の下に、結び目を作った紐を挟む。

 

「はい、ケンゴ」


 コータがケンゴに紐を渡す。


「ライト、オン!」


 シャキーン、とポーズを取って、ケンゴが懐中電灯のスイッチを入れる。

 奥を照らすと、きれいな石積みの空間が続いている。


「うおぉ……」


 思わず声が出る。

 これは思った以上に凄いぞ…!


「じゃ、進むぞ!」


 三人で恐る恐る進む。


「思ったより深いね」


 真っ暗で、懐中電灯しか光がない洞窟は、何かが出てきそうな雰囲気で、少し怖かった。

 しばらく進むと、突き当りになる。

 と思ったら、左右に道が続いていた。


「おお…分かれ道だ」

「どっちに行く?」

「リーダーに決めさせよう。ケンゴ」

「うぇ?! お、オレ? あー、じゃあ、右!」

「右ね」


 更に進むが、暫く進むと同じような分かれ道になる。


「次は?」

「え、えーっと、じゃあ、今度は左…!」


 ビビりながらなので、なかなか進まない。


 洞窟と表現しているが、どう見ても人工的な空間だ。どう呼べばいいのかはわからないけれど……


「ダンジョン、みたいだね」


 コータがポツリとつぶやいた。

 そう。そこは、ゲームでおなじみのダンジョンそのままの空間だった。


「何のために作られた場所なんだろ」

「さぁ……」

「婆ちゃんなら知ってんじゃね?」

「本当にダンジョンだったりしてね」

「ていうか、そもそもダンジョンって何なの?」

「え? いや、説明しろって言われたら困るな、ダンジョン……」


 ダンジョン、ダンジョンと言ってるうちに、だんだん自分たちが今いる場所がダンジョンのような気がしてくる。

 そうなると、モンスターが現れないことが、かえって不自然であるような気がしてくる。


「モンスターとか出ねぇかな」


 ケンゴがポツリとそういったところを見ると、同じようなことを考えているに違いない。


「ちょ、やめてよ」


 コータが怒ったように言う。

 そのくせ、こういう時にビビって帰ったりせず、むしろ一番先まで行こうとするのがコータなんだよな。

 さすが静かなるチャレンジャー。


「ちょっと休憩しようぜ」


 三十分もウロウロしただろうか、ケンゴが休憩するといい出したので、一旦休むことになった。


「では、ここでぼくがとびきり怖い話を一つ」


 とぼくが言うと、


「やめろ!」


 と二人に頭を殴られた。


 ▽


「それにしてもすげぇ場所だな」

「裏山にこんな場所があるとは思わなかった」

「だね」


 そう言いながら、コータがリュックサックをゴソゴソ漁る。


「何持ってきたの?」

「ゲーム。」

「ゲームって。今ぼくら、リアルでダンジョン攻略中じゃん」


笑うと、


「今まさにやってるのが、そのダンジョン攻略系のゲーム」


 とコータがゲーム機を取り出す。

 しかし。


「あ、あれ?電源入らない」


 ゲーム機の電源は入らなかった。


「充電しとけよ」

「したよ、したした。100%パーだったはずだもん」

「壊れた?」

「え、やめてよ、叱られるよ」


 慌てたように、コータが何度もボタンを押すが、電源が入る気配はなかった。


「ゲームなら、ほら、スマホ持ってきてるから、貸してやるからさ」


 ケンゴがスマホを取り出す。

 このデジタル世代め。せっかくの秘密基地でなぜゲームなんだ。


「って、あれ?」

「ケンゴも電源入らないの?」

「お、おぅ。入らねー、なんでだ?」


 ケンゴも焦った顔で、何度もボタンを押す。

 そのうち、コータがハッと気づいたように


「あ、アレだ!洞窟の中だからだ!」


 と言い出した。


「洞窟の中だとダメなのか?」

「いや、ほら、圏外なんじゃない?」

「あ、ああーー、そうか!」


 コータも納得したようだ。


 いやいやいや。

 圏外だとそりゃあ電話とかインターネットはできなくなるだろうけど、電源が入らなくなることはないだろ。

 ケンゴならともかく、いつものコータならすぐ気づきそうなもんだけど、パニクってるのか、そこに気づかないようだ。

 とすると、今現実を突きつけるのは、良くない気がする。


「じゃ、一旦戻ろうぜ」


そう言うと、ケンゴも「そうだな、戻ろう」と同意してくれた。


「コータ、紐たどって帰るから、案内よろしくな」

ケンゴがそう言うと、コータは、キョトンとした顔をする。

「ん、何だ?」

「紐……持ってるのぼくじゃないよ?」

「え」

「え」

「あの時、ケンゴに渡したじゃん。リーダーだしと思って」

「……」

「…………」

「………………そう言えば」

「……ケンゴ、紐は?」

「…………」

「………………」

「……………………すまん、持ってない」


 * * *


「どぉーーーーすんのぉーーーー!!」


 一瞬にしてコータがパニックになった。


「帰れないじゃん!もう三十分くらい歩いてるよ! 道わかんないじゃん!」

「待て待て、裏山なんてそんなでっかくないんだから、適当に歩いてたら帰れるって!」

「でも、今何時よ? もう4時半は過ぎてるってことだよな?」

「6時までに家に帰れる?」

「……」

「…………」

「………………ヤバイかも」

「どぉーーーーすんのぉーーーー!!」

「落ち着け! 落ち着けって!」

「落ち着いてられるわけ無いでしょ! ケイゴはいつもいつも!!」

「悪かったから! 悪かったから!」


 阿鼻叫喚。

 と、


「「「…………!!」」」


 ふっ、と、当たりが暗くなった。


「「「懐中電灯!!」」」


 懐中電灯がフッと消えてしまったのだ。


「ぎゃーーーーーっ!!」


 叫んだのは、コータか、ケンゴか、あるいはぼくか。

 全員かもしれない。

 とにかく三人でヒシっと抱き合ったまま、さらなるパニックになった。

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