2-4 逃避と窮地
「はあっ、はあっ、はあっ……」
規則正しいリズムで息を吸い込み、吐き出す。
走り始めていくらか経ったが、苦しさは感じない。まだ肉体の限界には程遠い──しかし、島崎は不安を感じていた。
連上の調子がおかしいのだ。
いつもの泰然とした覇気が──どんな大きな相手でも本気で小馬鹿にして見せる度胸と自信が、今日の連上からは感じられない。
印象だけの問題ではない。事実、テコンドー部の部室を出てから今まで、連上は相手に何一つ打撃を与えていないのだ。
部室を出てしばらくすると、テコンドー部の刺客が続々とやって来た。しかし連上は島崎を連れてただひたすらあちこちへ逃げ回るだけで、しかもその逃亡先もどういうわけかことごとくテコンドー部の連中に先回りされてしまっていた。そのせいで島崎達は一分たりとも休むことができずに走り続けている。これでは潰れるのは時間の問題だった。
開会式直後の連上の態度から、島崎はこの戦いは一から十まで連上の目論見通りに転がるのではないかと期待していた──それだけに、失望による消耗が激しかった。想定とあまりにも落差のあるこの状況に、島崎は精神的にはすでに押し潰される寸前だった。
折れかけている心を奮い立たせようと、島崎は起死回生の可能性──若干くすんではいるものの、それでも確実にそこにあるはずの希望の光を見出そうとして連上を見やる。
今、島崎の前にいる連上は携帯の画面に視線を落としている。
さっきから何度も繰り返し見ている光景だ。連上のことだから、理由もなくやっているわけでもないのだろうが──そのせわしない仕草も、今日の連上の頼りなさを醸し出していた。
「──うん」
携帯を閉じ、連上は息を弾ませながら島崎に言った。
「次は駐車場だ。いつも同じ場所に車を止める先生がいるんだ──その後ろに隠れれば、道からはクラブハウスの陰になって見えない。頑張れ、島崎君──必ず振り切れるから」
「わかった」
答えつつも、島崎の中にはもうどう足掻いても駄目だという気持ちが芽生えつつあった。
どんなに逃げても、奴らは後を追ってくる。
どこに隠れても、容易く発見される。
連上の策が、意図が、仕掛けが、見透かされている──今日に備えて数々の準備を施した連上だったが、それらすべてがいともあっさりと無効化されてしまう。このあまりにも一方的な流れは、根本的に梁山の器が連上のそれを上回っているからなのだろうか。
真偽の程は島崎にはわからないが、とにかく──二人は追い詰められつつあった。
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