第7話 秋隣り
放課後、菜穂は思い切って彼女の家を訪れた。
住所は、お見舞いを理由に、担任に聞いた(あながち嘘じゃない)。
樹の母親が出てきて、驚いたように菜穂を見た。
樹の友人が訪ねてくるのはずいぶん久しぶりだという。
菜穂は突然の訪問を詫びた。
「いいえ嬉しいのよ。樹もきっと喜ぶわ」
それはかなり怪しかった。
樹が自分に会ってくれるかも、わからない。
会ってくれても、歓迎してくれるとは思えない。
「樹、お友達よ」
母親が扉をノックして、そうっと開ける。
恐る恐る母親の後について、樹の部屋に入る。
母親が菜穂に目配せをして、部屋を出て行った。
「えっ」
当然のごとく、樹は驚いた。
樹はベッドに座ってタブレットを手にしていた。
あわててヘッドフォンを外し、
「松井さん…!?え、どうしたの一体」
ベッドから降りて立ち上がろうとしたが、すぐにがくんと右半身が崩れた。
「あ、だ、大丈夫?」
菜穂はあわてて駆け寄り、樹の体を支えた。
やはり、膝のケガというのは本当だったのか。
樹はしばらく眉根を寄せて痛みをこらえていたようだが、顔を上げた時には何事もなかったかのような表情で、
「松井さんが来るなんて、びっくりしちゃった」
「ご、ごめんね、急に押しかけて…」
あわてて、学生鞄から数冊のノートを取り出した。
「これ、よかったら使って欲しいと思って…」
差し出されたノートを樹は無意識に受け取って、中を開いた。
授業の板書を写したものである。
無言で菜穂を見た樹に、菜穂はあわてて、
「じゅ、受験あるから…授業大事だと思って」
「必要ない」
菜穂の言葉に被せるように、短く言った。
「え…」
「受験、しないから。高校も、卒業できるか分かんないし」
「だ…だって、スポーツ推薦…」
樹がきっと菜穂を睨んだ。
「必要ない。帰って!」
強い口調で言った。
菜穂は体が硬くなったように、動けなかった。
樹がノートを菜穂の体に押し付ける。
「これもいらないから。もう来ないで」
受け取り損ねたノートの束が、二人の足元に乱れ落ちた。
その日から菜穂は、放課後になると樹の家に日参した。
いつも門前払いをくらった。
樹の母親が済まなそうに、
「せっかく毎日来てくれて…申し訳ないんだけど…」
「また来ます」
毎日の授業のノートだけ母親に強引に渡して、くるりと背を向けて、帰る。
そんな毎日だった。
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