第39話 本格始動【3】
「まあいいや」
「よくはないですよ!?」
「どちらにしても教員免許はゲットしたから、本格的にビシバシやるよー!」
とはいえ、リズはこの訓練場に残る『邪泉』を浄化して消すことができない。
それは勇者のみが許された力。
そしてこの場の彼らは、その力を秘めている。
その力を引き出すことこそ、【賢者】の役目。
「まずは各々に課題を出す。難しいけど、キミたちならば必ずクリアできる課題だ。この地下訓練場にあるすべての施設をそれぞれ使うから飛ばすね」
「え」
問答無用。
青い扉の部屋は近接戦闘、肉弾戦を行うヘルベルト、フリードリヒ、エリザベート。
黄色い扉の部屋はロベルトとモナ。
それぞれを飛ばし、このだだっ広い空間に残ったのは弓士マルレーネとリズ。
「え、あ、あの?」
「先にあの子たちに課題出してくるから待ってて。マルレーネ、キミはココで待ってて」
「は、はい」
[瞬間転移]でまずは青い扉の中へ飛ぶ。
突然居場所が変わり、呆気に取られていたヘルベルトたちはハッとしてリズの方を見上げる。
「管理人殿! ここは……!」
「青い扉の中だよ。ここは近接戦闘系の者が訓練するのに必要なものが揃ってるみたいだからね」
「な、なんと。……しかし、確かに校内にあるものより専門的な器具が多いようだな」
「逆に使い方がわかりませんわ。管理人さんはおわかりになりますの?」
「[鑑定]すれば一発じゃん? …………もしかして誰も使えない?」
いや、フリードリヒはそんな気がしてた。
多分こいつは絶対[鑑定]スキルとか取ってない。
「まあ、なくても誰か取ってりゃ困らないだろうけどね。でも万が一分断された時とか困るでしょ。ヘルベルトとエリーは[鑑定]覚えられると思うし、今覚えちゃいなよ」
「え、わ、わたくしたちに覚えられるものなのですか?」
「イケるイケる。ボクは【賢者】だからね。【賢者】の称号スキルの中には[威圧]以外にもいくつか特殊なのがあるんだけど、その中に[スキルギフト]っていうっていう魔法かスキルを一日一つ、一人だけに与えられるものがあるんだ」
「「っ!?」」
「なんかすごそうですね!」
相変わらずまったくリズの桁外れさを理解していないフリードリヒはともかく、ヘルベルトとエリザベートはそのスキルの危険性にも即座に思い至った様子だ。
そう、このスキル、実は非常にとんでもない。
本来なら人に教えたりするのは、リズ自身を危険に晒す。
「そ、それは、わたくしたちに教えてよろしかったの?」
「教える気はなかったけど教えた方がキミたちは納得するし、ボクは【勇者】を信じてる」
「……管理人殿……」
「それにただの[鑑定]だしね。まあ、もう一つ言うと、ボクを言いなりにさせようってんなら【賢者】に喧嘩売るってことだから。買うよ、ボクは。その手の喧嘩は。金出してでも買うよ」
「……そういう方ですわよね、管理人さんは」
しかし、先程も言った通りこのスキルは『一日に一つのスキル、または魔法を一人だけ』にしか与えられない。
なのでヘルベルトとエリザベートはジャンケンをして、勝ったエリザベートに[鑑定]魔法を与えた。
与え方は手を繋ぐだけ。
その瞬間、エリザベートは目を見開く。
「あ——……あばばばばば……っ!」
「ど、どうしたんだね!?」
「エリザベートさん!?」
「え? エリー? 大丈夫? どうかした?」
だがリズが思っていた反応とエリザベートの反応がまるで違う。
なんだか混乱しているようなので、慌てた。
すると目を閉じて頭を抱え、しゃがみ込むエリザベート。
顔色も悪いし、どうかしたのだろうか。
「じょ、情報が頭の中にドバッと……し、視覚がモノの名前で埋め尽くされていて、目を開けられませんわっ」
「あー、なるほど。いきなりボクの[鑑定]レベルがそのまま使えるようになるのかー。それは確かに制御覚えるまで大変かも。……エリー、まずは情報を遮断しよう。これは
しゃがみ込んだエリザベートの肩に触れながら、そうアドバイスするとゆっくり顔を上げられる。
早くも疲れ果てたような表情だが、コツはすぐ理解したらしく「あ、消えましたわ」と報告してくれた。
「うんうん。鑑定は世界真理の断片を、さらに人間が扱えるように最適化した魔法。今のキミではレベル1の[鑑定]が一番負担がないだろう。確か【勇者】の称号スキルにも[
「? あのー、スキルと魔法って違うんですか?」
「「フ、フリードリヒ……!」」
あまりの初歩的な質問に、年長二人が目を見開いて絶句。
リズは「なんとなくそんな気はしてたよ……」と目が遠くなる。
フリードリヒは[鑑定]使えないだろうなー、と思ったのはこいつにこういうところがあるからだ。
「他の子を待たせてるから、エリーたちに聞くか今度授業してあげるまで待つか、どっちがいい?」
「管理人さんに教わりたいです!」
「じゃあ今度ね」
「はい!!」
元気だけはいいんだが。
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