第19話 真白のホーホゥ【後編】
「かわいー!」
「白いホーホゥか、珍しいな」
連れ帰ったのは寮地下にある談話室。
最近はここで勇者候補たちが食事を摂る。
男子寮、女子寮ともにそれぞれ食堂はあるのだが、彼らはここ数日リズに話を聞きに来るので新しく地下に談話室を作った。
食事の載ったトレイを横に置き、ヘルベルトがホーホゥをツンツンとつつく。
それに反応を示さないほど、ホーホゥは弱っている。
「それにしてもゼジル殿下は聞けば聞くほど小物ですわね。上の兄君たちが優秀なぶん、甘やかされておられるのかしら」
「ストレートすぎだよ、エリザベート。まあその通りだと思うけどね、ボクも」
「エリザベートは、殿下たちにお目にかかったことがあるのかい?」
ロベルトが話に入ってくると、ぎろりときつい視線が向けられる。
エリザベートはヘルベルトとは馬が合わない様子だが、ロベルトに対してはもっと攻撃的だ。
「あなたに関係あって!?」
「い、いいえ。すみません」
「それに、呼び捨てもやめていただけるかしら!」
「あ……そ、そうでしたね、つい……」
「つい、で済めば注意などいたしませんわ! あなたはわたくしを頻繁にそう呼ぶではないですか!」
「そうなの?」とリズが思わずヘルベルトを見上げるが、堅物男にはその意味のこもったアイコンタクトが通じなかったようで首を傾げられる。
仕方なくマルレーネを見ると、にこりと微笑まれる。なにそれ、どっちだ。
「す、すみません……もう、呼び捨てにはしません」
「……っ! そんなの当たり前ですわ! あなたが、そんなだから……!」
ロベルトが見上げたエリザベートは顔を赤くして怒っていた。
その怒りのままに立ち上がると「ふん!」と背を向けて談話室を出ていく。
「エリザベート!」
「お黙り!」
そんな彼女を呼び止めようとロベルトが立ち上がる。
しかし一喝。
いや、怖い。
「エリザベート……」
「相変わらず身分にこだわる女だ」
「い、いえ、今のは僕が……悪かったので……。歳も僕の方が一つ下ですし」
「……それだけか?」
と、リズが思わず聞いてしまう。
一瞬ロベルトの表情が強張った。
(ああ、これは他にもあるな)
だが、すぐに愛想笑いになる。
穏やかそうに見えてロベルトはなかなかの頑固者だ。
それはここ一ヶ月、彼を見て得た情報。
まったく堅物男と頑固者がよく一緒に生活できるな、と頭が痛くなる。
男子寮の方がまだ穏和に見えたのはフリードリヒがいるおかげだろう。
「まあ、けど、今のはエリザベートが悪いな。ちょっと注意してくる」
「え! 管理人さん、待ってください! エリザベートはなにも悪く……」
「場の空気ぶっ壊すやつが世間に出てどうにかなると思っとる?」
「…………」
「まあ、ボクも割と人のことは言えないんだけどさ。ボクはほら、天才なので。天才だから許されるところあるけどエリザベートはそうじゃないじゃん。友達とか、ボクは姉がいればそれでいい派だから、どうでもいいんだけどキミたちはそうじゃないでしょ? 特にエリザベートみたいなやつは必要だと思うよ、味方が」
それともマルレーネが外に出てもエリザベートの面倒を見てくれるのだろうか、とマルレーネをチラッと見てみる。
ニコッと微笑まれた。
うん、これはあまり期待できない。
マルレーネは四侯爵家の養女であり、元は平民。
多分「なんのお力添えもできません」の笑みだ、今回のアレは。
「ロベルトさんはなんでかエリザベートさんに嫌われてますよね!」
「フリードリヒ!」
さすがのヘルベルトも、今のフリードリヒの一言はよろしくないとわかったらしい。
フリードリヒ、たまーに空気を和ませるよりもぶっ壊す。
「ホーホゥを頼むね」
そう言ってリズはエリザベートを追った。
(まあ、エリザベートはロベルトの件だけではないんだよな)
ロベルトへの態度はヘルベルトの時よりも攻撃的。
じゃあヘルベルトに対してはまともかというと、こちらも意見が対立しがち。
フリードリヒとモナに対しては身分差を盾に、常に上から目線で命令口調。
マルレーネに対しても、彼女がユスト家に引き取られた元孤児とわかると手のひらを返したように態度も口調もキツくなった。
逆にマルレーネとモナは平民出身とわかって仲良くなっているらしいが、そうなるとわかりやすくエリザベートがぼっち化する。
しかも態度が身分で変わるとわかったので、マルレーネもあからさまに距離を取り始めた。
マルレーネがその様子だと、マルレーネに懸想しているヘルベルトもどことなくエリザベートに対して攻撃的になる。
態度が変わらないのはロベルトとフリードリヒだが、彼らに対してのエリザベートがあの調子。
(ここは中立のボクが仲立ちしてあげるべきだよね。管理人らしく!)
仕事は真面目にやる。
お給料がほしいから。
年末の教員試験のためにも、これから先生生徒として接していくためにも、今から良好な関係、過ごしやすく居心地のよい職場を目指す。
もちろん、前世からの縁で勇者というものに思うところがある、というのもあるけれど。
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