第14話 孤児院【前編】
大地の日——この世界の休日を指す。
この世界は一週間が七日で構成されている。
『烈火の日』七日間の始まり。
『流水の日』七日間の二日目。
『雷の日』七日間の三日目。
『岩の日』七日間の四日目。
『疾風の日』七日間の五日目。
『花弁の日』七日間の六日目。
『大地の日』七日間の七日目。
同じく『烈火の季節』、『流水の季節』、『雷の季節』、『岩の季節』、『疾風の季節』、『花弁の季節』、『大地の季節』で一年が構成されている。
一週間は七回繰り返され、誕生日は烈火の季節、烈火の週の烈火の日、というように呼ばれた。
そのように、七はとても特別な数字とされている。
以前は国ごとにより暦が違っていたが、魔王との戦いで混乱が生じたため現在はこの暦に世界が統一しているという。
なぜ七の数字がこうも使われているかといえば、魔王を封じた勇者が七人パーティーだったから、と伝わっている。
剣士、武闘士、魔法使い、治癒士、弓士、槍士、盾騎士。
彼らは魔王と死闘の末、五人が亡くなり剣士と治癒士でなんとか魔王を封印した。
最後の戦いで剣士の勇者も亡くなり、治癒士は語り部として世界に勇者を育てる機関を設けるよう尽力。
最後は魔王の呪いで亡くなったとされる。
(余計なことをしたものだよ、まったく)
しょせんは伝承。
遥か昔すぎて、どこまで真実かはわからない。
ただ、どう考えても余計なことをしたと思う。
「管理人さん」
「ああ、来たか。では出かけよう」
「うん……」
普段着だという上品な白いワンピースを着たマルレーネが、門の前で待っていたリズのところへやってくる。
普段と違い、少しテンションが高いように見えた。
やはり孤児院に行くのはとても楽しみにしていたようだ。
「でも、管理人さんが孤児院になんの用なの?」
「この間マルレーネの家の夫人が来ただろう?」
「……あの人になにか言われたの?」
門を閉める。
すると、早速マルレーネの機嫌が悪くなった。
あの人、と呼ぶところから考えてもやはりあまり関係は良好に見えない。
違う違う、と首を振って否定する。
「その前の日にフリードリヒとモナを連れて、魔物の討伐に行ったというのは、覚えているかい?」
「え? ああ、そういえばそれが理由でお金のことを教えてくれたんだったわね」
「そうだ。その時、魔物の様子がおかしくてね。経過観察してたんだ。で、その様子がおかしい魔物の巣が、マルレーネの出身だという孤児院の近くにあるのがわかった」
「えっ!」
「その辺りの出身なら詳しいだろう? もちろん、必要なら協力してもらいたい。まあ、キミは冒険者登録してないから、戦闘には参加させられないけど」
あからさまに顔つきが変わった。
やはりマルレーネにとって、孤児院はかけがえのない特別な場所のままなのだ。
ならばやはり、自分の目で真実を見極めるのが一番確実だろう。
「詳しく教えてください」
「いいよ。歩きながら話そう」
「はい」
とはいえ、ユスト侯爵家領内にあるその孤児院まで、テクテク歩いて行ったら日が暮れる。
一瞬でその孤児院がある町まで転移すると、入り口から孤児院まで歩くその間に説明をした。
王都の町の側に現れていた、本来ならば群れないはずの魔物たち。
しかもそれらの一部は強く、巨大になっていた。
数が多すぎるのもおかしい。
まるでそれは——。
「まるで、それは?」
リズは一度そこで口を噤んだ。
マルレーネが首を傾げ、続きを促す。
「……まるで魔王復活の前兆のようだよ」
「えっ……」
立ち止まったマルレーネ。
小さな声だが、彼女は聞き逃さなかった。
前だけ見据えて苛立ちに目を細める。
この世界の魔王と、リズの前世の魔王が同じだとは限らない。
あのような地獄は二度と見たくないから、もし、魔王が復活するならどの国の勇者にも手出しはさせず、自分が単身で倒しに行こう。
倒せるかどうかは関係ない。
刺し違えてでも。
「確証はない。だから検証が必要なんだ。ボクが学園で仕入れた知識にそういう資料があった。それがそのまま起きているとなれば、とりあえず疑ってみる必要はあるだろう」
「……っ」
「本当は騎士団や国の仕事なんだけどね。使えないみたいだから仕方ない。それに、目的は魔物のことだけじゃない」
孤児院はこじんまりと町の外れに建っていた。
庭は整えられ、柵で囲われ、花壇も作られている。
壁の修繕跡。真新しい扉。磨かれた窓。
マルレーネは、それらを見て目を丸くしていた。
「あ! マルレーネ姉ちゃん!」
「え! うそ!」
「本当だよ!」
「本当だ! マルレーネ姉ちゃんだ! 帰ってきた! マルレーネ姉ちゃんが帰ってきたぞー!」
子どもの声が響いて、そちらを見れば広い庭。
マルレーネは一瞬口を手で覆い、震えた。
そのあと駆け出す。
柵を飛び越え、集まってきた子どもたちを抱き締めた。
「ただいまっ……!!」
その光景だけで、彼女が押さえ込んでいたものがわかる。
やはりマルレーネのあの無気力な様子は、この場所に帰りたい気持ちや自らを殺していたからだったのだ。
「マルレーネ!」
「アズサ!」
マルレーネと同い年くらいの少女が駆け寄ってくる。
おそらくこの孤児院最年長。
シスターの服装をしていることから、外に出るのを諦めてここの世話役になったのだろう。
眺めていると涙を流しながら再会を喜んでいる。
ひとしきり再会に泣きじゃくったマルレーネは、子どもたちに慰められてようやく泣き止む。
小一時間近く、泣いていた気がする。
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