第6話 お仕事放棄!
共同通路は全開放して、管理人棟に行ってみる。
一応二階建て。
地下一階は倉庫のようだ。
入ってすぐにテーブルと椅子。
本棚と左の方に扉と階段がある。
他と違って、ここは埃っぽい。
清掃魔法でどうこうするものではなく、単純にこの建物が長年放置されてカビ臭さがこびりついているのだろう。
(何年放置されていたのだここは。あの子たち、何年管理人も担当教師もなくここにいるんだ?)
また腹が立ってきた。
建物を見て回るついでに、窓を片っ端から開けていく。
なによりショックだったのはベッドもカビ臭かったことだろうか。
こんな場所では寝たくないので、屋上の洗濯干場にマットレスを転移させ、天日干しにすることにした。
しかし、一日干したところでこの匂いは取れないだろう。
近いうちに買い直さなければならない。
「はあ……お金が欲しい」
実家には頼れない。
むしろ、実家に仕送りしなければならないのに。
「……よし、稼ごう」
とにかく今、金がない。
屋上から空を見上げ、腰に手を当てがって強く頷く。
先程、寮規則を調べた時に『管理人の副業を禁ず』と『寮生の副業を禁ず』を廃止してきた。
教員免許を取得して、勇者候補たちの担任教師になった暁には校則も片っ端から変えてやるつもりだが、まずは……金だ。
とにかく今、金がなさ過ぎる。
家との連絡手段として便箋は購入したが、まずもって食費がない。
食糧はたまに休みの日に王都近郊の森で魔物を狩ったり、木の実やきのこ、薬草などを採集して手持ちは足りるがそれもいつまでもあるわけではない。
それに服や下着、その他消耗品や雑費、仕送りを思うとどう考えても稼ぐ以外の選択肢がなかった。
(そういえばここの管理費はどうなっていたのだろう? 帳簿のようなものは金庫になかったけど……管理人棟の中を探してみるか)
やることは山のようにある。
立ち上がって、管理人棟の本棚という本棚を片っ端から調べて分かったのは割ととんでもない事実。
「バカな……生徒の親からの寄付金で管理費を賄っていた、だと……」
不遇だとは聞かされていたし、これまで通っていた王立学園内は隔離されている彼らを嘲笑う風潮だった。
おかしい、おかしい、と思っていたがよもや経費まで切られていたとは思わない。
ここに公爵家や侯爵家の貴族がいなければ、では……どうなっていたのか。
呆れた。
そして、また腹が立ってきた。
ますます必要ないだろう、
(つまりこれからは自分たちの生活費は自分たちで稼いでもいい、ということだな)
副業禁止、廃止して良かった、と心の底から思いながら帳簿を本棚に戻す。
学園側にも廃止した事項の報告は必要だろうが、まずはそれによる『成果』を一緒に突きつけて黙らせねばならない。
つまり——。
「ふふふふふ……ボクのお金は増えるし彼らの訓練にもなるし、『成果』にもなる……一石三鳥とはこのこと……ふふふふふふふ」
もうお分かりだろうが、ろくなことにならないとだけは宣言しておく。
***
「というわけでキミたち、全員冒険者登録をして強い魔物を狩りに行くぞ!」
「は、はあ?」
翌朝、女子寮の食堂で高らかに宣言した。
が、それと同時に三人の女生徒の距離に違和感を覚えた。
見事に、離れている。
(女生徒同士も仲良くないのか?)
モナは平民のようだから、貴族のマルレーネとエリザベートを敬遠しているのかもしれない。
貴族令嬢同士は、上っ面の関係が多いがここでまで取り繕う必要もないので、それで三人の座る位置が見事な三角形に仕上がっているのだろう、多分。
「わたくしは結構ですわ。本日は読書をしたいのです」
「ワタシも遠慮しておきます。部屋でやりたいことがあるので」
「そうか、まあ、無理強いはしないけどな。モナはどうだ?」
貴族令嬢二人は案の定。
平民のモナは右の片隅で食事をしていた。
話しかけられて、びくりと肩を跳ねる。
顔色が悪い。
「…………ま、気が向いたら門のところに来てくれ」
リズもまた伯爵令嬢。
確かに公爵令嬢と四侯爵令嬢の二人に挟まれていては、居心地は悪そうだ。
さて、それでは男子寮の方はどうだろう?
「というわけでキミたち、全員冒険者登録をして強い魔物を狩りに行くぞ!」
「は」
「はあ……?」
「なにが『というわけで』なのか分かりませんが、面白そうだからおれっち、行きたい!」
元気に挙手したのはやはりというか、平民元気っ子のフリードリヒ。
ロベルトとヘルベルトは、顔を見合わせて苦笑いしている。
やはり貴族連中は来る気がない。
「興味深いが、私は鍛錬の続きをしたい」
「僕も読みかけの魔法書を読み切ってしまいたいので、今回は遠慮します」
「そうか。ではフリードリヒ、食べ終わったら門の前に集合だ!」
「はーい!」
こうなることは想定内。
リズも適当に食事を済ませ、ベルに来客があったら教えるように頼んで玄関から外へと出る。
門の前にいたのはフリードリヒ。
と、そしてモナ。
「お、モナも来る気になったか」
「あ、う、うん。うち、あんまり貴族様のおるとこで喋れねくて」
「ふぁっ……」
一瞬なにを言われたのかよく聞き取れないほどの訛り。
するとモナはハッと自分の口を両手で覆う。
「あ、ご、ごめんなさ……管理人さんも貴族様だったんだべな……」
「い、いいいいいや、ボクはそういうの全然気にしない方だけど、ええ? キミそんなに訛ってたの? 出身どこ?」
「あ、ひ、東の、一番端っこの方……」
「あ、ああ、『東和海国』側の……」
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