第22話 精密検査
自分にこんなことが起こるとは思わなかった。こんなこととはどんなことか。
まず、今週は、土日だけでなく、金曜日と月曜日に休みをとり、待望の4連休なのだというところから話さねばならない。
前々から、妻と鎌倉に行って泊まろうかとか、箱根に行こうかなどと話していた。
しかしまず、緊急事態宣言が延長され、ひどく行きづらくなった。
自分たちはいい。もう気が緩んで、ホテルに電話して状況を訊いてみても、「いや、皆さん気楽に来てらっしゃいますよ」と、まあそんな返答だ。
皆、緊急事態宣言なんて、もはやなんとも思っていないのだ。
しかし、私と妻は、鎌倉も箱根も諦めた。なぜなら、ひとり息子の拓哉の目が気になるからだ。
彼は真面目で正義を愛する奴である。私たちが旅行に出かけたら断然非難するだろう。
情けない親である。
しかしここまではありきたりの話である。当たり前の決断をしただけである。
話はそのあとだ。
実は休みが近くなって、健康診断の結果が届いて私は困惑した。
甲状腺に疾患があるので精密検査をしてくださいとあったのだ。
しかもCDみたいなものと医師への紹介状まで封印されて入っていて、それを受け取った私は「こりゃいかん!」と思ったのだ。
仕方なく、すぐにそれを持って近くの医院まで行ったのだった。
エコーで見てもらうと、甲状腺に大きな腫瘍がみつかった。
私はもうダメだと思った。
大学病院を紹介され、結局金曜日の休みの日に、鎌倉や箱根ではなく、病院を受診したのである。
かなり大きな腫瘍だと言われていたから、間違いなく癌だろう。
癌なんて、他人事だと思っていた。何となく、自分がなるという想像をしたことがなかった。
仕事を休んで入院になるだろう。
治るか治らないかわからない手術をする羽目になるだろう。
私は困惑した。
色々な状況を考えると、まだ死ぬわけにいかないのだ。
しかし血液検査とエコー診断の結果、良性とはいわないが、今すぐ入院したり、手術をしたりする必要はないと言われた。
ただ、悪性なのかそうでないのか、来週木曜にはっきりとした検査をすることになっている。
随分とのんびりしとるなあ。
私はそう思った。
これくらいのんびり構えてもらえるということならば、大丈夫なのではないか。
今はそう思っている。
医師も、とりあえずは「今すぐどうこうしようということではない」と言ってくれたのだから。
とりあえずは助かった。
命拾いした思いである。
妻も子供も喜んでくれた。
休みはまだある。月曜まで休みだ。
お祝いに、鎌倉に感謝のお参りに行くか?
緊急事態宣言たぜ!
は、はい!
息子に一喝された。
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