第16話 三つ葉取り
最近、私はちょっと間違っていたような気がする。
休みとなれば、映画ばかり観て、妻や子との時間を割くのがひどく勿体なく、おろそかになっていた。
映画を観るのは「映画の旅」という映画レビューを書くためで、ずっと以前は観なくても大抵のものは記憶を頼りに書いていたのだが、いつからかネタ切れになり、ネットフリックスか、プライムビデオか、TSUTAYAの DVDなどを観て,それから書くという作業をしていた。
自分の趣味に没頭して、子はともかくとして、妻を全くかまってやらなかった。
妻はそのせいか、鉢植えなどをせっせと買ってきて世話をしたり、ちょっとした野菜を作ったり、そうでなければ散歩に精を出していた。
なんか、妻がかわいそう。
そう思った私は、先日妻に付き合って家の裏手の方にあるこじんまりとした山に、三つ葉取りにでかけた。
穏やかな天気で,陽の光が気持ちよく、そよ風が心地よかった。
「もう、あったかくなっちゃったから、三つ葉も大きくなっちゃったな」
と、妻。
妻によれば、あまり大きい三つ葉は良くないのだそうである。美味しくないのか、何なのか、妻は小さめのを選んで摘む。私は森をぶらぶら歩きながら、新鮮な空気を胸いっぱい吸い込む。
やっぱりたまにはこういう時間も貴重だと思う。自然と触れ合うというだけでなく、妻とのこうした時間を楽しむことに、人生の意味がある。
ひとしきり摘むと、妻は帰り支度を始める。山道を、妻と並んで家路に着く。
年に一度の三つ葉取りはあっという間に終わる。
春の昼下がり。木々の隙間からチラチラと陽の落ちる午後。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。
いつまでも、こうして妻と仲良く、元気でいられるといいのに。
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