第8話 ちょっとした話



ちょっと疲れているせいか、きょうは怖い体験を思い出してしまった。

ホラーとか、苦手な方はご遠慮いただくことにして、せっかくだからここにその体験を書き記そうと思う。

念のためお断りしておくと、これは実話であり、創作したものではない。


高校生の頃、気まぐれで、働いてお金を貰うとはどういう感覚なのか知りたくて、2、3ヶ月だけ新聞配達のアルバイトをしたことがある。


朝3時頃には専売所に行って、新聞に広告を折り込み、配達順に自転車に積んで闇の中を出発する。


季節はいつごろだったか覚えてないが、殆ど雨に降られた記憶がない。

確か、高校2年生だったと思う。


途中、夜が明けるか明けないかの頃、墓地の横の小道を通る。急な坂になっていて、自転車を降り、手で押して上がっていかなければならない。


墓の横を歩くのは嫌だった。まだ薄明の中である。

金を貰うとはこういうことなのか、などと納得して、若いなりに何かを理解できたような気がしたものだ。


ある日のこと、いつも通り専売所を出発して、やがて墓の横の小道に差し掛かった時、私は妙なものを見てしまった。

女の人である。

歳の頃は50前後か。

白い、着物かネグリジェか覚えてないが、とにかく白い服を着ている。

なぜ妙か?

だって、その女の人は私の背丈くらいある塀の向こう側に立っていて、その塀の上に胸から上くらいが出ていて、こちらを見ているのである。

どんだけ背が高いんじゃ。

そう思ったが、何かの上に立っているのだろうと、反射的に考えた。だって、そう考えないと、怖くてその横を通れなくなってしまう。

私はその坂を、新聞を積んだ自転車を押して登っていく。

その女の人のすぐ前を通る時、私はなぜか女の人の方を見てしまった。

女の人は、ニターッと笑ったのである!!

ぞ〜ーーー!!

私は走った。力の限り走り、坂のてっぺんまで行くと、自転車に乗って力の限り漕いだ!

で、でた〜!

私は思わず、ひとり叫んだ。


あの女の人は何だったのだろう?

やはり、この世の方ではなかったのだろうか?


この話は、妻も、子供も知っている。

私が心の中にしまっておけず、話すからだ。


あの女性の姿は今でも鮮明に覚えている。

一生忘れることはないだろう。

いや、ただそれだけの話。

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