第7話 拓哉、待ってる。
最近、一人息子の拓哉を、を家から追い出してしまおうと思うことがある。
拓哉は幼い頃、本当に可愛かった。
それこそ、目の中に入れても痛くないというのはこのことで、大切に、可愛がって育ててきた。
しかしつい最近になって本当に生意気になり、今は大学4年生だし、コロナのせいで学校には行かず、毎日イラストばかり描いて、家には何の役にも立たない。
それなのに文句だけは一人前で、ちょっと料理を作ってくれたりすることもあるが、そういう時は食材にも調味料にもこだわって、あまりに神経質なので、いつも妻と衝突する。
偉そうで理屈っぽく、鼻持ちならない。
なんだか子供の頃妻に随分ひどい仕打ちをされたとか言っていて、まるで妻を恨んでいるかのように感じることがある。
ずっと家にいて、ストレスのない状態でこうなのだから、会社に勤めるようになったらどれだけ偉そうになるか、恐ろしくもある。
あれだけ可愛がってやったのに、大事に育てたのに、と思うと悲しみすら湧いてくる。
でも、親としては、家から出て行ってくれとは言えない。
それを言うと、私の父や母と同じになってしまう。
私は、彼らを反面教師にして子供を育ててきたはずなのだ。
同じことをするわけにはいかない。
親から拒絶されることがどれほど辛いか、私も良く知っている。
ここは私たちが、彼が自分の生意気さに気づき、治ってくるまで我慢すべきなのだろう。
考えようによっては、彼も大人社会の入り口で、今は精神が不安定になりやすいのかもしれない。
将来、彼が精神的に安定して、追い出さなくて良かったと思う時が来るのを、我慢強く待つしかないかもしれない。もしそう言う時が来たら、追い出さなくて良かったと心底思うだろうし。
逆に、彼は会社の勤務先への通勤の都合や、転勤などで、自分から家を出なければならなくなる時が来るかもしれない。
その時は逆に、心配して胸も痛むのかもしれない。
人間同士というのは、親子でも難しい。
彼を憎たらしく思うことがある反面、こうして書いていると、何となく切なく、心が痛む。
彼はひとりっ子で誰も頼れないし、私が社会的に至らないせいで外国暮らしをさせたり、祖母やおばと仲たがいして長年一切の親戚付き合いもなかった。
そうしたことを考えると、彼の個性には私の未熟さが大いに影響しているのではないか。
辛い思いも随分させたのではないか。
可愛がったとか、大事にしたとか、自分がしたいい面ばかり見て、子供がひそかに抱えている痛みを、私は知らないのかもしれない。
息子よ。
至らない親だったかもしれないけど、君もいよいよ社会人になるんだ。
社会人になったら、くじけずに頑張ろうな。
お父さん、お前にもう少しの間、我慢するから、立派な大人になってくれな。
もう少しだけ待ってるから。
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