n人目

 こいつと出会ったのは、二週間前のことだ。

 道端に落ちていたこいつの鞘がきれいで、高く売れると思った俺は、家に持ち帰った。家に着くと無性に抜き身を見たくなった。鞘を払うと彫刻をほどこした美しい刃が現れた。

 そのときから、そのときから俺はこいつの支配下におかれた。こいつは血を吸いたがった。人を切れ、と命令してきた。俺が断ると、こいつは俺の頭を痛くした。耳鳴りがするような感じだった。超音波でも出せるのだろうか? 二、三回やられると俺は耐えられなくなり、逆らうことをやめた。そして、夜の街を徘徊して、人を切った。

 こいつは、俺に人を切るだけではなく、切った人の右目をくりぬくように指示した。もちろん、したがった。なんてったってあの頭痛は俺にとって一番の苦痛だったからな。こいつは時々、一度にたくさんの血を吸いたがったが、近い場所で一度にたくさんの人を切ると、一人の仕業とばれる可能性が高まるから、とこいつをなだめた。俺が警察に捕まるとこいつが次にいつ、血を吸えるか分からないからな。

 こいつに血を吸わせるために、俺も試行錯誤した。たとえば、同じ県では人を切らない、と言うことだ。やはり、同じ県警が捜査するのは良くないからな。こいつを満足させるには、人を切るしかないからな。

 でも、その考えも、もう古いものだったようだ。俺はもうすぐ、警察に捕まるようだ。しかし、そうなったら、こいつはどうなるのだろうか? 真面目な警察官でも支配下におくのだろうか? どうせなら、こいつが犯行を指示したのだと警察に話してみようか? きっと、だれも信じてくれないのだろう。でも、願うことは罪にならないだろう。こいつが、このナイフが……。

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