クロスチャイルド 第1章 ミラク編 4 [1/3]
乾いた独特のにおいが鼻先をかすめた。火薬のにおいが強くなっていった。
ユキは考えるまでもなく、次の手を打つために素早く腕を動かした。
そのにおいの元をたどるように目線を合わせた先には武装集団がいて、その一人が携帯している所持品を目掛けてためらいもなく発砲した。
その光線は正確に目標物に当たり、まばゆい光線と大きな音とともに、中規模の爆発が起こった。
目の前がちかちかした。ガラス片は粉々になって舞い上がり、ダイアモンドダストのように舞っていた。
はいがかった爆煙が当たり一面に広がり、視界が遮られた。乾いた独特のにおいは、鼻いっぱいに広がり、さらに下の方で火が小さく燃え広がっている。
乱雑でまばらな火だった。
視界が鮮明になってくると、爆心地近くにいた武装集団は見るも無残な姿になっていた。
直撃して即死の者。重傷を追う者。叫び声が絶え間なくあちこちで聞こえる。
強烈な焼けた肉と血の臭いが辺りを充満していた。
ただそれをユキは黙ってシャンデリアの上から見下ろしていた。
幾度となく見てきた光景には、何の感情も生まれなかった。
麻痺していた。
ユキの存在に気づいた残党兵は、見上げた先のユキに向けて銃を発砲する。
ユキはしなやかに、だけど俊敏に動いてレーザー光線の集団を紙一重で次々とかわしていく。
ーふと、遠くで叫び声が聞こえた。ミラクの声だった。
ユキは声の方向に耳を向けると、そのままひらりとシャンデリアから飛び降り、声の方向に走った。
残党兵が叫びながら後ろから追いかけてくるが、その声はノイズキャンセルされたイヤフォンから聞こえる外音のように、もはや些細な音だった。
* * *
アーサーがユキから受け取ったイヤーカフから施設を呼び出そうと画面を空間上に出現させた時だった。
レーザー光線がアーサーの右腕を貫いた。
肉の焼ける臭いと、血の臭いと鮮血がミラクの五感を占領して、頭の中が真っ白になった。
「きゃー!アーサーさん!」
蹲るアーサーに駆け寄り、どうしていいのかわからずに、ただ流れる血をどうにか止めようと狼狽えることしかできなかった。
「うそうそ…どうしよう…どうしよう…」
青ざめていくアーサーの顔と、蛇口が壊れたように流れ出る血の流れに恐怖のあまり上手く呼吸が出来ない。生々しく、強烈な光景に、今にも卒倒しそうだった。
「僕は大丈夫…君は逃げろ…」と言ってアーサーは再び画面を出そうとしたが、その瞬間、ミラクは何者かに口と手足を抑えられ、髪も引っ張られて後ろに力強く引かれた。
びくともしないその力にどうすることもできずにただ声にならない声を上げるしかなかった。
「ううー!」
近くにいたもう一人がアーサーのこめかみに向かって銃を突きつける。
アーサーが観念したように目を閉じると、ミラクは目を瞠り、声にならない声で叫んだ。
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