世界の邂逅

虫十無

魔法と

「マホー? マホーってなんだい?」

「こないだネットで見たんだ。だけど、俺にもよくわからないんだよ……」

「調べてみたのか?」

「そこには、広辞苑からって書いてあって、『魔力をはたらかせて不思議なことを行う術。魔術。妖術。』って書いてあったんだ、というより、字も全く読めなかったから音声読み上げ機能がなかったら読めなかったんだよ」

「なんだよそれ、説明になってないじゃん、そもそもコージエンってなんだし」

「ちょっと待ってよ、二人とも。それってもしかして、数十年前から話題になってる『異世界』なんじゃない?」

「ってことは、ネットが異世界に繋がってるってこと?」

「の可能性があるってこと。だってこの世界において文字は一つだろ? 読めない文字なんてある訳ないんだからさ。もしかしたら異世界にもネットがあってそこと繋がってるのかもしれないね」

「もしかして、大発見か?」

「まだ可能性の段階だけど、可能性は高いかもしれないよ」

「もしかしたらそこにも知能がある生き物住んでんのかなあ」

「そういえば国が異世界については夢を持つなって言ってたよな? ってことはここで大声で話しちゃまずかったか…?」

「ハンスの大声はいつものことだからいいだろ」


 なんだかこいつらの話を聞いてるだけになっていたが、ここでひとまず状況を説明しよう。まず、ここはこいつらの学校の教室である。おっと、そういえば君たちは同じような音なのに違う意味の言葉を使っていることがあるんだったな。そうだな、君たちの言葉だと、「職場」が一番近いか。時間は午後、えーっと、ああ、時間も午後も同じような意味みたいだな。しかし君たちの世界では一日を千四百四十にも分けるんだな。わからなくなったりしないのか? しかもそこまで分けたうえでさらに百等分したりするのか……、必要ないんじゃないか? 意味ないだろ。そういえばっと、意味という言葉も同じだな。あれ…もしかすると、同じ意味のものの方が多いかもしれないな。まあいいだろう、違う意味のものがあったときに教えてやる。というより、ここから先のこいつらの会話はある程度訳しながら教えてやろう。まあいいや、この三人は、ハンス、カール、トーマスという。ハンスは、えーと、一番最初から喋ってるうるさいやつだな。カールは異世界を見つけてしまったかもしれない張本人で一番静かで素直なやつ。トーマスは、頭は良いんだろうが、時々いや、ちょくちょくアホとしか思えない言動をする奴だ。まあ、こいつらの話をもう少し聞きたいなら、一旦説明を切り上げようか、もう帰るみたいだからな。何? 最後にもう一つだけ? ここはどこかって? だから学校の…違った、それでもなく? ああ、君たちはこいつらの言う異世界からの客人だったな。君たちからすればここが異世界というわけだな。さあ、こいつらの話を聞きに行こう。


「そもそもなんで異世界があるかもしれないってなったんだ?」

「波動じゃなかったか?」

 波動というのは電波のようなものだな。何? 邪魔? 親切心で教えてやってるのに…まあすぐに見つけられなかっただけだが。

「ああ、天空局が波動を感知したが、それがどうも変な具合だってことで、こちらからすぐ帰ってくるようなのを飛ばしたんだとさ。そしたら帰ってこない。それからだな、異世界があるんじゃないかって言われてるのは」

「もういいんじゃね、この話」

「お前は飽きるのが早過ぎる。もう少ししっかり考えろ」

「いや、それを言うならなんで俺たち歩いて帰ってるんだ?」

「まあ、すぐ別れると話したいことがあっても話せないだろ」

「だからってこんな暑い日にまで歩かなくてもいいだろ」

「そう思うならお前だけ先に帰ってもいいんだぞ。カプセル持ってない訳じゃないんだろ? お前がいると俺までうるさく思われるからな」

「なんか、ひどくね? 俺に対してだけ」

「当り前だろう? 面白いんだからな」

「立ち止まっても邪魔じゃないんだよな……いつの間にかみんなカプセル持ち歩くことで楽に移動するようになったもんな……」

「そういえばそうだな……カプセルができる前は楽に移動しようとすると移動してない時に邪魔だったもんな」


 さて、こいつらの言うカプセルというのは箒を小さくして持ち運びやすくなるようにしたものだ。このことを言えば君たちの中にわかる人も出てくるかもしれないが、この世界には君たちの世界で言う魔法がある。迷信や過去のものではない。あるのが当り前である。丁度、君たちの世界の科学のようなものだ。科学の範囲内で疑問はあっても科学がなぜあるのかということには疑問を抱かないように、この世界に魔法があるのは当り前である。ただし、魔法とは呼ばれていない。この世界での魔法の呼び名は……


「あのう……」

「なんだね、カール」

「えっ、どうして俺の名前を?」

「これはいけない……一寸待ちたまえ、君は私が見えるのかね?」

「ええ、当り前でしょう。俺たちの後をずっとついてきてたでしょう? じゃんけんで負けて俺が聞くことになっちまったんですよ。貴方たちは誰なんですか?」

「私は普段から君たちのことを見ていたニンフだ。ちなみに迷信だと思っていたかもしれないが、実際にいたが見えるやつがほとんどいなかっただけだ。見えていなかっただろう?」

「えっ、普段から? でも、ニンフって女じゃないんですか?」

「時代は変わるんだよ、カール」

「そしたら、その人たちは仲間ですか?」

「いや、こちらは客人だよ、君たちがさっきまで話していた異世界からのね。ああ、異世界には文字がいっぱいあって、こちらの方々は丁度話していた文字を使っているそうだ。こちらの方々の世界ではこの世界の科学は魔法と呼ばれるんだ。そして、この世界の歔幻は科学と呼ばれている。どちらの世界でもあるのは科学だ」



 さて、君たちもそろそろ帰る頃合いだろう。君たちの世界から魔法やら異世界やらはしばらく見えないだろう。頑張って見つけてくれたまえ。その時が来ることを私は楽しみにしているよ。え? 死なないのかって? 何のことだ?

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世界の邂逅 虫十無 @musitomu

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