⑦ アクロイドに会いたくて 現に一目見しごとはあらず
私は、本のネタバレはそこまで気にしないタイプだ。概要から結末までの大まかなストーリーを知っていても、実際に自分の目で確かめたときの感動は失われないからだ。
とはいえ、なるべくならばネタバレにあわずして作品に出会いたいものではあるが。
ネタバレとは言えないが、小説を原作にした映画やドラマを先に見てしまうことにも、ネタバレと同様の危険が存在する。
数年前、「アヒルと鴨のコインロッカー」を見たときにそう思った。
何か面白い邦画はないかと探していた時に友人にお勧めされた作品で、確かに面白かった。ストーリーも出演されている役者の演技もとても良かった。
ただ、見た後にそれが伊坂幸太郎の小説の映画化されたものであると知って、もったいないことをしたかな、と少し後悔した。
小説の醍醐味は、登場人物や風景等を自分の頭の中で自由に再現し想像を膨らませるところにある。映像が先だとこの想像が固定化されてしまう。
反対に、小説を読んでから映像化されたものを見るときはそれはない。ストーリーや登場人物の設定が異なっていたりして、別物ととらえることができる。むしろ、「なるほど実写だとこういう風に表現できるのか」と別の視点での楽しみが増える。
先に映像化作品を見てしまった場合は、小説を読むのは少し記憶が薄れてからにしている。小説を十分に楽しむために置いておくのだ。
「アヒルと鴨のコインロッカー」もまだ読んでいない。なんとなく時間をおいて楽しみたいから、置いて寝かせたままでいる。
ネタバレにあいたくない最たるものは、ミステリーであろうかと思う。犯人やトリックを知ることは、なるべくならば自分の目が一番手であってほしい。ネタバレにあった場合は、その作品は読まないか、やはりいつか記憶が薄れたら読もうと置いておく。
私にとってアガサ・クリスティの「アクロイド殺し」はそれである。アクロイド殺しは昔友人からネタバレをくらってからというもの、手元にも置かずずっと寝かせたままでいた。
アガサ・クリスティの作品はあらかた読んでおり、大好きである。「そして誰もいなくなった」を読んだのは小学生の頃であるし、ポアロが出てくる「オリエント急行殺人事件」やミスマープルの「火曜クラブ」は勿論好きだし、「検察側の証人」のような短編小説も最高である。
当然翻訳版だし昔の作品なのだが、クリスティ作品の面白さは今なお色褪せない。「アクロイド殺し」もまた高評価を受けている作品である。いつでも読む機会はあったが、話に聞いただけの内容が印象に残りすぎて、寝かさざるを得なかったのである。
そんな「アクロイド殺し」だが、つい最近ようやく読むことができた。
きっかけも何もないが、先日書店に入った私は、気づけば早川書房の棚の目の前に立っていた。ついにこの時が来たとばかりに、私は「アクロイド殺し」を手に取り会計を済ませ、家に帰って読破した。
読んだ感想はここでは多くを語らないが、一言で言うなら最高であった。
やはり、小説は現実に一目見た方が素晴らしいのである。
ちなみに、読んだことのない人は、ぜひ何も事前情報を入れずに読んでほしい。ネットやSNSで検索することは推奨しない。私と同じく何年も寝かすことにならないように。
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