実家にいるらしい話。

 私の実家にはアップライトピアノがある。「ピアノをやりたい」と言った私に、同居していた父方の祖母が買ってくれた物であった。

 ただ、残念なことに私のピアノの腕は中の下で、幼稚園から高校2年生くらいまではピアノ教室に通っていたのに、いまだに音程がわからないくらいで終わってしまっている。

 練習している音を周りに聞かれるのが恥ずかしくて、大体ヘッドホンをして消音で弾いていたくらいの、気概のなさだった。


 そんなピアノ教室を辞めてからはほぼ弾いていなかった可哀想なピアノを、このたび兄の友人のH氏が欲しいと言ってくれた。

 このH氏は何故兄の友人なのか不明なほど多彩な方なのだが、なんでも今度のチャリティーコンサートでピアノを演奏するらしい。

 ピアノだって使ってくれる人の元にあった方が良いので、私は一も二もなく頷いた。


 そのあと別件で実家の母に電話したところ、「そういえばいるらしいよ」と言われた。

 何でもH氏、霊感があるという。

 そしてピアノを見に来て、試し弾きをしたとき、老女が木の椅子に座ってピアノの音に耳を傾けていたらしい。

 今うちの実家には老女はいない。よくよくH氏に話を聞けば、父方の祖母のようであった。

 ただ、父方の祖母は数年前に没している。

 そしてよく私のピアノを聞いていた。ヘッドセットをして、端から見れば無音な状態で練習していたのに、祖母は近くに座って聞いていたので、私は嫌だった。

 でも死んでからもピアノを聞きに出てくるなんて、余程好きだったのだろう。

 もう少し聞かせてあげれば良かったと思いつつも、もうどうしようもない。

 こんなにしんみりするとは思わなかった。

 これからはH氏の演奏を聞かせていただければと思う。

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