第17話 月下の憂鬱(5)
不思議そうに茜の青い瞳をじっと見つめたかと思うと、少年は自分の首に巻いていた青いマフラーを外して、茜の首に巻いた。
「これあげる。さむいでしょ? あ、あとね……これも」
ポケットに手を入れて、マフラーと同じ色の手袋を出すと、茜の冷え切った手にはめてくれる。
「わぁ……すっごく冷たいよ? どうしてここにいるの?」
少年は茜と同じくらいの歳で、どこかで転んだのか、鼻に絆創膏を貼っていて、無意識に何度か絆創膏に触れると、何も言わずにただ少年の優しさに戸惑っていた茜の横にすとんと座った。
(どうしてここに……? それはこっちのセリフだ。どうして呪受者がここに?)
初めて呪受者の話を聞いた時から、何度かその行方を探ったこともあったが、日本各地を巡っても、あの1度きりしか出会う事のなかった存在だ。
それが突然現れて、こんなに近くにいるなんて、思いもしなかった。
この近所に住んでいたなら、きっと妖怪たちが放っておかないだろう。
必ず噂になっているはずだ。
それに、先ほどの感じから、この少年は呪受者が何かわかっていないようだった。
「君は……だれ?」
やっと口を開いた茜が話してくれたのが嬉しかったのか、少年はニコニコと笑って、答える。
「ぼく? そーま。にのまえそーま! 4さ……あ、5さい!!」
最近5歳になったばかりの少年・
その大きな無邪気な声には、偶然通った大人たちもびっくりする。
「キミは?」
「アタシは…………茜」
これが、二人のはじめの出会いだった。
* * *
「颯真、鼻の絆創膏、どうしたの?」
「ん? なおった」
少し目を離した隙に、息子がいなくなっていることに気がついた両親が颯真を見つけた時、いなくなる前に寺院で転んで手当を受けた傷がなくなっていた。
「治った? こんなに早く治るなんて、大した怪我じゃなかったのかしら?」
母は不思議そうに首をかしげる。
早朝、颯真を連れて寺院に行った祖母の話によると、雪ではしゃぎすぎて顔から転んだと聞いていたのだ。
「きっと、おばあちゃんは大げさに言ったのね。マフラーもしてないし……どこへ行っていたの?」
「えーとね……あかねちゃんのおウチ!!」
「アカネちゃん? あら、お友達ができたの?」
母がそう聞くと、颯真は何かを思い出したのか、顔を赤くする。
「うん、だからね、マフラーはあかねちゃんにあげちゃった! あかねちゃん、すっごく、すっごくさむそうだったから」
はにかみながら、そう言った息子に、勝手にものをあげちゃダメだと注意しつつ、母はもしかして、初恋?なんて、心の中で思う。
息子の可愛い変化だ。
一方、そんな変化に気づいていない父親の方は、ただもう勝手にいなくならないようとだけ注意すると、颯真を抱きかかえて、宿泊先のホテルへ戻った。
まさか、この日の夜に、また息子がいなくなるなんて、思いもせずに————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます