第7話 その時を夢見て(1)
彼女だけを残して、時代は変わる————
政治の中心が江戸に移って、数十年後。
もう数えるのも面倒なくらい、迎えた春のこと。
「
「何!? それは珍しい…………何十年ぶりだ?」
(呪受者……?)
心地よい春の日差しを浴びながら、丘の上に寝転んでいる八百比丘尼の周りで、そんな会話が聞こえて来た。
あまり聞きなれない言葉に、一体なんの話かと声がする方を見ると、その会話がこの地域に住む妖怪たちによるものだと気がつく。
「それが、ただの呪受者ではないらしいのだ。なんでも、あの大妖怪・玉藻様が掛けたものらしい」
「なんだと!? それはまた珍しい!!」
「右の目に掛けられているとか、いないとか……」
「ではその右目を喰らえば、玉藻様と同等の力が得られるのだろう? えらいこっちゃ!!」
人間の手のひら程度の小さな一つ目妖怪たちは、すぐそばで八百比丘尼が聞き耳を立ていることも知らずに、盛り上がっている。
「お前たち、その話、詳しく聞かせろ」
八百比丘尼がそう声をかけると、人間が自分たちの姿が見えていることに驚き、慌てて
「あ、おいこら!! 逃げるな」
そのうち一匹を捕まえて、つまみ上げると短い手足をバタバタと動かして抵抗する。
「放せ!! 放せ!! 人間に聞かせる話など————って、八百比丘尼様!?」
一つ目妖怪は、八百比丘尼の青い瞳を見て、ピタリと動きを止めた。
「おや、私のことを知っているのか……」
* * *
八百比丘尼は、もしかしたら呪受者こそが、いつか玉藻を消す力を持つ者なのではないかと考えた。
一つ目妖怪から聞いた呪受者の話によると、呪受者は彼女の師である淋海にもできなかった、玉藻を封印した巫女の末裔の一族らしい。
呪受者の噂は、妖怪たちの間では有名な話らしく、その右目を喰らえば玉藻と同等の力を得られるだけではなく、強い力を持つ人間の体だけでも十分強い力を手に入れることができる。
妖怪たちの噂によると、今噂になっている呪受者は幼い子供だという。
自分の目でその噂の真意を確かめようと、妖怪たちの目撃情報を頼りにたどり着いたのは、神社のすぐ近くだった。
(赤い……右目の子供————)
妖怪たちがその右目を狙っているのであれば、神社や寺などの安全な場所にいる可能性が高い。
八百比丘尼は鳥居をくぐって、境内へ入ると、そこで赤い右目ではなく、藤色の瞳と目が合った。
「これは珍しい……————青い瞳だ」
外見は二十歳そこそこといったところくらいだが、その男とも女とも取れる藤色の瞳の青年は、八百比丘尼の姿を見て微笑んだ。
八百比丘尼は、青年の瞳の色で、それが何者か察した。
緋色の瞳は、妖怪。
青色の瞳は、人ならざる理を生きる者。
藤色の瞳は、神の子。
かつて、師から聞いた話だ——————
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