第23話  Ⅳ-①

人を信じることが好きだった。

というより人を疑うことが嫌いだった。

最初から信じないよりはずっとマシだと思っていた。

例え裏切られたとしても。


 2015年10月

悲しいことがあった。

悲しいことが沢山あった。

お母さんが死んでしまったこと。

ニニニも死んでしまったこと。

いよいよ立ち行かなくなった借金のこと。そして春川君とのこと。

お母さんが死んでしまったことの悲しみは、根っこの部分では深く心に刻まれているが、時間が癒してくれる心の表層部分はある程度行動できるまでに回復してくれていた。

ニニニが死んでしまった。猫の平均寿命は10年くらいと言われているが、私たちが小さい時から遊んでいたニニニはとっくに10才を越えていて、体もだいぶ弱っていた。近いうちに死んでしまうことは分かっていたが、お母さんの死が癒えきらない恵に追い打ちをかけるようで、私にはとても見ていられなかった。

私の元気印の恵は、もともと感性が強いこともあり、まるで悲しみの波に元気をさらわれてしまったかのようにいつも意気消沈している。私にはそれをただ見ていることしかできなかった。何を言っても癒してあげられないのが分かっているから…そして、それがどうしようもなく悲しかった。

借金の問題もかなり深刻なところまで来ていた。お母さんの四十九日の日に訪ねてきたのは借金取りだった。といっても私が直接借金をしているところではなくて、不良債権回収専門のヤクザ系の借金取りで、返済があまりにも滞っているために、借金が本当に危ないところにまで転売されてしまったようだった。

その日から嫌がらせを含む執拗な取り立て行為が始まり、そっとしておいてほしい私たちを休ませてくれることは無かった。家の玄関に張り紙をされることや、取り立ての電話が執拗にかかってくることはまだいいが、夜中に取り立ての訪問があったり、脅迫まがいの電話や手紙があったり、会社に直接取り立ての電話がかかってきたりしており、それらは全てどうしようもない現状を物語っていた。

深夜の訪問や脅迫などは法律で禁止されているが、それは向こうも取り立てのプロで、犯罪として立件されるような行為を知り尽くしいるようで、ギリギリのところで証拠を残さなかったり、犯罪行為を行ったとしても、次の日にはその取り立て会社は無くなっていて、違う取り立て屋に転売されているなど巧妙な手口で私たちに迫ってきた。

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