第20話  Ⅲ-②

今日は四十九日だった。

私と恵は納骨に来ていた。

もうそんなに時が経ったなんてとても信じられない。お母さんが死んだのはまるで昨日のことのようだ。恵も私も涙が枯れることはなかった。私は無気力になり、会社もいっぱい休んでしまった。もう数えるのも嫌になるくらいに。信心深い私でも悲しみと説法は別物だと言うことが嫌という程身に染みた。

恵は仏教徒という訳ではないため、(おそらく宗教自体の概念を理解できないのではないか?)四十九日など興味もなく、外に出ることを極端に嫌がったが、お母さんのためにも私が無理やり連れてきた。だからもともと化粧なんかしない顔だが、目は充血して、頬は腫れたままでひどいものである。かくいう私も必要最小限しか化粧していないから似たようなものではあるが…

「お母さん、もう苦しみも痛みもないよね。天国ではきっと幸せになってね。私たちなら大丈夫だから。」

私は墓前で涙ながらに祈りを捧げた。恵は私の横で、私の方をちらちら見ながら真似をして手を合わせている。

「希望ちゃん。きっとお母さんは幸せだったと思うよ。」

後ろから住職が声をかけてくれた。

「お父さんが先に亡くなったことは残念だったけど、それでも希望ちゃんと恵ちゃんと三人で精いっぱい仲良く暮らしたんだから、幸せな人生を送れたと胸を張っていると思うよ。希望ちゃんも沢山徳を積んでいることだしね。」

和尚さんの言葉は、あまり母と親交が無かったにもかかわらず説得力があり、すっと私の中に入ってきた。おそらく自分では気づかないうちに、他人の温かい言葉を欲してしまっていたのだろう。

「本当にありがとうございます。色々と何から何までしてもらって。住職には感謝の言葉も見つかりません。」

私はもう一度心からのお礼を言った。

泣き続けるミンミンゼミの声は私の壊れた心を揺らし、あまりの暑さに反射的に背中を流れる汗は衣服をじっとりと濡らしてまとわりついてくる。感覚が麻痺しているのか暑いとは全く感じていないのに…これだから夏は嫌なんだ、私はそんなことを無意識に考えてしまっていた。

「もう帰ろうよ。」

一通り納骨の儀式を終え、本堂でお茶をご馳走になりながら、住職と少しお話をしていた私に、恵が唐突にそう言った。恵にはあまり馴染みのないところで、馴染みのない人と一緒にいるのが嫌なのだろう。そして慣れない行事で疲れてしまっているのだろう。

「分かったわ。もう帰りましょう。」

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