第13話 Ⅱ-③
春川君はふっと鼻で笑いながらそう言った。
「何だか難しそうな話ね。やっぱり営業も色々と大変なのね。」
私は目の前のスパゲッティと依然格闘を続けながらそう言ってみた。
「まぁ、ぶっちゃけると内容はどうでもいいんだけどね。必要なのは結果だけ。お客さんが商品を買って、手数料としてお金が会社に入る、その結果があればケインズだろうが、魔法だろうが、北風だろうが、太陽だろうが、何でもいい。実際、俺も大学の頃ケインズを講義で聞いてたはずだけど、何一つ理解してないからね。それでも俺は同期では出来てる方だし。」
なるほど。彼の言い分にはかなりの説得力がある。多分それが私の働く会社の営業理念であり、真理であり、そして正義なのだろう。私も三年間事務課で仕事をしながら、営業課のことを知っているつもりだったが、実際の話を聞くと迫真がありとても興味深かった。
「高橋課長は春川君のこと気に入ってるみたいだね。休みの日の指示までするなんて、期待されてるんだね。」
もう少し営業課のことが知りたくなって、話題を少し変えてみた。
「高橋が?俺の事を!?そう見えるんなら、多分それは高橋の思惑にしっかりハマってるってことなんだろうね。」
「どういうこと?」
私は理解できず、さらに尋ねてみる。
「高橋も例外にもれず会社人間だからさ、数字の事以外は興味無いんだと思う。その上でどうすれば数字を上げられるかっていうのを日々模索してるのさ。そして見せしめとして俺みたいな、数字がそこそこ出来て権力のない若手を一人標的として作る。そうすると本人は期待されてると思って頑張るし、周りは負けないように頑張ろうとする。同じ理由で、喝を入れる時も全体に漠然と怒鳴るよりも、一人を代表して怒る方が効果的なんだと思うよ。
まぁ、俺はひねくれてるから、あいつの思い通りにはならないけどね。」
なるほど。営業の現場というのもお客さんだけでなく、営業員同士でも騙し、騙されの世界なのだ。理解しているつもりだったが、私の認識はまだまだ甘かったようである。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。そう、本当にあっという間に。私たちはスパゲッティを食べ終わり食後のコーヒーを飲もうとしていた。申し訳ないことに、食べるのが遅い私に合わせて春川君はだいぶ無理をしてゆっくり食べてくれたようだった。
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