青色のフィルム

汐莉

第1話

 中学生の頃は、小学生に戻りたいと思い、高校生の頃は、中学生に戻りたいと思う。大学生になっても、また高校生に戻りたいと思うのだろうか。今の私には、到底想像できない。そんなことを思いながら、高校の非常階段を降りる、3年の卒業式の日。左胸ポケットにささる小さな花がすこし萎れてきている。もう太陽が沈む。明日からこの高校に通うことはない。思い出の詰まった校舎から離れられない私は、もしかすると、高校という時代に未練たらたらなのかもしれない。

ここから先の話は、今から3年前。この高校に入学してくるときの話である。

             *


 私がこの春から入学する高校、済南高校は吹奏楽の強豪校である。全国大会常連校であり、TVでも密着取材されたほどである。もちろん、この私、坂崎音も吹奏楽で全国大会へ出場したいという思いから、入学を決意した。推薦入学では不合格になったので、必死の思いで一般入試を受け、ぎりぎりで滑り込んだのだ。

 中学の頃は、全国大会など到底目指すことができるような実力ではない学校に通っていた。地方大会銀賞がいいほうで、万年銅賞であった。周りの仲間も、本気で上を目指すというよりは、好きな曲を楽しく吹ければいいという子が多かった。もちろん、楽しいという感情を追い求めるのは当たり前のことであるし、私もその一員であったのだが、物足りなさを感じていたのも事実である。


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青色のフィルム 汐莉 @anonatsu26

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