第2話 体育祭

「そういち〜、なんでカメラマンなんか立候補したんだよ。俺と二人三脚しようよ〜」


「俺と二人三脚したらビリ確定だろ。俺はみんなの勇姿をバッチリ撮らせていただきます」


「負けそうになったら創一を担いで走る」


「やめろ」



 こんな会話が出来るようになるくらい、俺は俊太郎しゅんたろうと仲良くなっていた。

 うんうん、いい感じだ。



「俊ちゃんはうちのクラスのエースなんだから、影森かげもりなんかに足引っ張られちゃだめだよ〜〜!」


「おい、梨李亜りりあ! 創一に失礼だろ!」



 俊太郎に怒られて、ペロっと舌を出すのはクラスメイトの遠藤えんどう梨李亜りりあ

 制服のボタンがはち切れそうなくらいの胸を俊太郎に押し付けて、きゃっきゃと笑う彼女もきっとヒロイン候補だ。

 ボインだし、むっちりした太ももは男性読者に気に入られそう。



「影森くんのカメラマンだって、重要な役目ですよ」


九重ここのえにそう言われるとなぁ……」



 学級委員長の九重ここのえ園美そのみ

 俺をフォローしていると見せかけて、視線はチラチラと俊太郎に向かっている。

 胸は遠藤より控えめだが、知的で涼しい視線と、スラリと伸びる細い足は魅力的だ。



「俊太郎! あたしとテッペン取るぞ!」


「あーーー、のぞむに引き摺られる未来しか見えねーんだよー!」



 陸上部に所属している渡会わたらいのぞむ

 日に焼けた小麦色の肌が健康的だ。

 筋肉質ではあるのだが、マッチョというところまでは行っておらず、いい具合に締まって見える。

 運動するには邪魔だからという理由で胸を潰しているらしいが、本来の大きさはかなりのものだというのが、とある筋からの情報だった。


 俊太郎の周りに集まってきた美少女たちに笹岡を加えた四人のことを、俺はハーレム四天王と呼んでいた。

 他クラスや部活(俊太郎はバスケ部だ)絡みでも勿論女子に囲まれる俊太郎だが、群がる女子たちを含めても、四天王は群を抜いてレベルが高いのだ。


 一つ気になるのは、笹岡の俊太郎への当たりの強さである。

 いわゆるツンデレ、というやつなのだろうか。

 まぁ、俊太郎に冷たくしているといっても結局は幼馴染という最強カードを持っているわけで。

 俺の中での正ヒロイン候補ナンバーワンであることに変わりはなかった。





 体育祭は大きな問題もなく終了した。

 俊太郎はいくつもの種目で一位を取ったし、渡会との二人三脚も走りきった。


 ゴール直後に足がもつれて抱き合うというラッキースケベ的な展開はあったものの、俊太郎がそれによってどうこう、みたいなことはなかった。

 俺的にはそこで渡会との距離がぐっと縮むってのもいいと思うんだが。

 ただ、あれ以来、渡会が俊太郎を目で追う頻度が増えたような気がするので、何も進展がなかったわけではないと思う。


 学年優勝を果たした俺たちのクラスは、ホームルームの後に教室で担任が買ってきてくれたジュースと少しのお菓子で大いに盛り上がった。

 俺はみんなと乾杯をした後、写真選びをすることにする。


 端の方に寄せられた机の上に腰掛け、カメラに付いたモニターで 写真を確認していく。

 ブレているものは論外。すぐに消去だ。

 他にも、本気になるあまり、人には見られたくないだろうなって顔になっちゃってるやつとか、そういう写真を確認しては消去していく。


 大量に撮った写真を流し見していると、俺は奇妙な感覚に襲われた。


 


 ハッと顔を上げても、笹岡は俺を見ていない。

 女子のグループに混じって会話をしているだけだ。


 俺はまた手元に視線を落とし、そして気付く。

 写真の中の笹岡と、目が合っていることに。


 まさかと思って、確認済みの写真を遡る。

 どの写真に写る笹岡も、みんな完璧なだった。


 それから全部の写真を確認したが、笹岡は最後の一枚まで見事にカメラ目線だった。

 なんなら終わりに近付くにつれて、写る表情も計算し尽くしているみたいな。


 笹岡は、実はトップモデルなのではなかろうか。

 でも、入学式の後にグーグル先生に聞いた限りでは、そういう活動はしていなかった。


 天賦の才なのかも。

 俺は自分をそう納得させ、購入数を聞くために教室に張り出す写真を選び終えるのだった。

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