第187話 さり気ない外堀の埋め方
「やあ、エル。来ると思ってたよ」
フリードと一緒に執務室に入ると、笑顔で出迎えてくれるジーク義兄様。
子持ちの父親としての風格と、若くして公爵家の当主になった才覚を兼ね備えていながらも、話しかけやすい、爽やかなイケメンであるジーク義兄様は相変わらず凄いけど、レフィーア姉様が惚れたのも頷けるよね。
「突然すみません。お忙しかったでしょうか?」
「そうでもないさ。レフィーアもエルに会いたがってたし、私も義弟と息子の様子を見て和みたいからね」
すっかり俺に懐いているフリードに微笑んでから来客用のソファーに移動するジーク義兄様。
俺も対面に座るけど、フリードが俺とジーク義兄様を交互に見てから、少し悩んで俺の隣に嬉しそうに座る様子は微笑ましいものだった。
大好きな父親と叔父のどちらの隣か迷ってから、恐らく来客の俺を優先したのは、幼いながらも公爵家の跡取りとしてのものが無意識にすり込まれているのかもしれないが……流石にそれは考えすぎかな?
でも、ジーク義兄様とレフィーア姉様の息子のフリードならあるいは……そんな事を思える程にこの子は贔屓目なしに親の才覚を全て遺伝してそうなので末恐ろしくも頼もしい甥であった。
「レフィーア姉様はお元気ですか?」
「二度目ともなると、前よりも落ち着いてるね。まあ、レフィーアの場合フリードの時から落ち着いてたけど、前よりも話し相手が多いから、余裕もあるのかもしれないね」
何の話かといえば、実はレフィーア姉様に2人目の子供が少し前に宿ったそうだ。
夫婦円満で、跡継ぎのフリードも賢い子で安泰の公爵家とはいえ、跡目争いにならない程度には子宝に恵まれたいと思うのは人のさがだろう。
それを抜きにしても、わりとゆっくりな2人目の妊娠だけど、一人一人に目を向けたいという親心が強いのかもしれない。
無言の優しさが当たり前なのは凄くいいものだよね。
「それなら良かったです」
「エルの婚約者達にもお礼を言っておいてくれるかな?彼女たちにも色々お世話になってるようだし」
「分かりました」
家が隣ということで、空いてる時間にフリードを連れて我が家に来て婚約者達とお茶をしたり、逆にレフィーア姉様が妊娠してからはこちらからも婚約者達が時間を作って会いに行ってるようで、良い関係を築けているみたいだ。
まあ、レフィーア姉様は公爵夫人、アイリス、レイナ、セリィは俺の婚約者として色々と忙しかったりもするけど、息抜きをする時間がまるでない訳でもないので、義家族の交流も捗るのかもしれない。
俺?俺は1人で個々人に会うことが多すぎるようにも思えるのでそれはそれという事にして貰いたい。
家族仲は円満だけど、タクシーしたり、自分を高めたり、婚約者達とイチャイチャしたりとやる事も多いのでもう少しのんびりしてもいいかもしれない。
「そういえば、最近プログレム伯爵家のご令嬢もエルの所に出入りしてると聞いたけど」
ふと、ジーク義兄様が思い出したようにアイーシャについて尋ねてくる。
「ええ、少し前に友人になりまして」
「へー、友人ねぇ……」
「何か気になることでも?」
含みのある笑みを浮かべるジーク義兄様に問いかけるとジーク義兄様は少し考えてから実に楽しそうに言った。
「実はね、帝国の皇子様が来る前だったかな……私の元にプログレム伯爵とご子息が訪ねてきたんだ」
俺がアイーシャと友人になったから挨拶……とかではないよね?
「外堀を埋めに来たんだろうね。プログレム伯爵はそういう腹芸はそこまで得意でもないから、ご子息が優秀なのかな?陛下のところにも行ったようだし、エルは本当にモテるよね」
「ええっと……アストレア公爵家としてはそれで大丈夫なんですか?」
俺が聞くのもおかしいかもだけど、仮の話でも俺に婚約者が増えると色々大変そうなのでそう聞くと、ジーク義兄様は実にあっさりと答えた。
「ダルテシアの王族と貴族からそれぞれ娘が嫁げば、それだけ繋がりも深くなるし、プログレム伯爵なら変な欲を出しておかしな真似もしないだろうし、陛下も私もエルの判断に任せるよ。ただ……」
「ただ?」
「我が家からも、側室でいいから娘をエルに嫁がせることになるかもしれないね。その時はまだ見ぬ娘をよろしく頼んだよ」
これ以上嫁を増やすのはちょっとなぁ……なんて思うけど、アイーシャに関してはかなり外堀を埋められてるようなので、無視も出来ないよね。
アイーシャなら確かに俺としても望むところではあるが、やはり本人の意思が大切なので俺から無理強いは絶対にしないでおこう。
友人という距離感も気に入ってるから、悩ましいけど……まあ、全てはアイーシャ次第ということで。
あとは、婚約者達が俺に他にも婚約者が出来てどう思うか……なんか、アイーシャなら素直に受け入れられそうではあるけど、とりあえず迷ったり困った時は、優しい婚約者達や家族に相談に限るかな。
俺は目の前のジーク義兄様に元気づけられつつも、隣で俺のお土産のお菓子を美味しそうに食べるフリードを見て和むことでひとまず落ち着くことにした。
うん、これはお土産にして正解だったな。凄く美味しい。
そうして甘い物で落ち着くのだから我ながら単純なものだと思う。
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