第185話 サプライズの反応

「よう、おめでとうお父さん」

「……殿下、楽しんでませんか?」


翌朝、いつもとは違う意味で疲れてそうなトールに笑顔で声をかけると、俺の爽やかな笑み(当社比)にケチをつけてくるトール。


失礼な。俺は心から自分の騎士が親になったことを祝福しただけなのに……全く、相変わらず鋭いヤツめ。


「そんな事ないさ。昨夜はケイトの相手……いや、ケイトがクレアに譲ってクレアと二人きりで寝たのかな?」

「見ていたように当ててきますね……」

「ああ、やっぱり正解だったか」


それなりの付き合いなので、何となくで予想を口にすると普通に正解だったようでトールが昨夜のことを思い出したような顔をする。


いつものイチャイチャ(物理)とは違う意味で、きっと奴はクレアから甘えられたのだろう。


それがどれ程のものなのかは、俺にはきっと想像がつかないので考えることはしないけど、トールの様子から、色々と理性的なものも試されたのだと思われる。


夫婦円満なようで何よりですなぁ。


「にしても、それが分かってたら無理に連れてかなかったんだけどな。朝は気づかなかったのか?」

「少し違和感はあったんですが、尋ねても問題ないとかわされまして。ただ、妙にご機嫌というか、ワクワクしてたので、多分、本人は気づいてたんでしょうねぇ」


普段は奥さんの愛がデカすぎて、気づかないレベルではあっても、クレアを愛してると断言出来るトール。


クレアの事を誰よりも熟知しているそのトールでさえ上手いこと手のひらで転がすのだから、流石はクレアと言うべきかな?


まあ、それくらいでないとトールというハイスペックケモ耳イケメンの奥さんにはなれないのだろうが、残念な部分さえも上手いこと利用するあたり、実は大物なのかもしれないとさえ思えてくるから不思議だ。


「とりあえず、あれだな。ケイトの実家への挨拶だけじゃなくて、クレアの実家への報告もスケジュールに入れるべきもしれないな」

「……殿下、是非とも同席を」

「嫌だよ」

「お願いします」

「いや、だってどっちも大変そうだし……」


ケイトの実家の方は、娘さんを下さいと言いに行くので荒れるかもしれないし、クレアの方は前に一度会ったことがあったけど、とにかく娘婿のトールを義家族が気に入っており、そちらはそちらで大変だったのは記憶に新しいので、俺としてはどちらにも同席したいとは思わなかった。


というか、俺はただのタクシーなので、自分の騎士の付き添いでそういうイベントを見るよりも、空いてる時間で観光とかしてる方が余程楽しいだろうと思う。


「ケイトの両親のこと、覚えてる?」

「おぼろげですが、少しは」

「娘さんを渡して欲しいと言ったら、斬りかかってくる類の親御さんだったりするなら、むしろ俺は行くべきじゃないでしょ」

「そうなんですが……保護者代理という名目で」


確かに、そういう名目で、以前クレアの家族と会った……というか、結婚式も何故か俺がそちらの役回りをさせられたのだが、トールとアイリスを俺が引き取ったのだから誰も疑問に思わなくて逆に俺が驚いた程だ。


まあ、アイリスのためなら苦でもないけど、流石にトールの新しい嫁の家族に挨拶に行くのにも付き合うは大変そうなので是非とも遠慮したいところ。


「幼い頃のアイリス事聞けるかも知れませんよ?」

「それは気になる……って、騙されないぞ」


ケイトですら、アイリスと会った時はほぼほぼ初対面に近い状態だった。


それくらいに当時は幼かったアイリスは、まだまだ赤ちゃんだったはずだし、聞ける話なんてほとんど無いと少し考えれば分かるもの。


とはいえ、ヤツもそうして可愛い妹を引き合いに出すくらいには、出来ることなら俺を同席させたいのだろうが……そこで男を見せて欲しいものだが、トールなので仕方ないか。


「とにかく、お願いします。一人だと自信がないんですよ……」


格上の強者の帝国の皇帝や、フレデリカ姉様、高名な騎士を相手どる時でも臆すことがないトールのそんな様子は、嫁たちならキュンキュンしたりするのだろうが、残念なことに俺にはまるで効果がないので諦めて欲しい所。


そうは言っても、ヤツも親になったことで色々と気持ちの整理も必要なのだろうし……仕方ないかな。


「仕方ないな……これっきりだぞ?」

「ありがとうございます」


心底ホッとしたように笑みを浮かべるトール。


とはいえ、念の為に一言付け加えておこう。


「これ以降の嫁の時は、一人で親御さんと向き合うように」

「いえ、これ以降も何も、奥さんは増えませんから」

「そうだね、今は」

「不吉なことを言わないでくださいよ……」


とはいえ、トールは強くて、イケメンでうさ耳だから、モテない理由が無いのだけど……トール好みのちょっと面倒くさいタイプというか、変わった娘が現れて迫られたら恐らくヤツは断れないだろうし、新しい嫁が増える未来が俺にはくっきりと見えてしまうよ。


そうして、朝から実に大変そうなトールとやり取りをするけど、しかし、親友が親になる……改めて考えると中々に凄いことだけど、当の本人がこれだと実感が湧かないものだなぁ。


まあ、そのうちトールも父親としての自覚が出てくるだろうし、その時に楽しめばいいかな。








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