第174話 健康的な運動
「あ!エルいたー!」
父様の執務室を出ると、廊下の先からそんな声が聞こえてくる。
我が家族や親戚や知り合いは皆、凄いね。
遠くてもしっかりと聞こえるので、カリスマというステータスが軒並み高いのだろうと、元陰キャのボッチはそう思います。
まあ、今も友人は少ないし本質的には陰キャのボッチではあるけど、今世はアレルギーがないことで比較的、心做しか人間関係も円満な気がする。
それに、婚約者が三人もいるのは、自分でも驚きのモテ度であった。
アレルギーが無いだけで、幸せを使い切ってそうなに可愛い婚約者や素敵な家族に恵まれて、恐らく来世はその分のツケが回ってきて地獄行きになるかもとネガティブな思考になる俺は病んでるのだろうか?
まあ、その前に来世に転生するのかは不明だけど。
「フレデリカ姉様、こんにちは」
さて、アホみたいな思考を放置して俺は嬉しそうに駆けてくるフレデリカ姉様に視線を向けると、フレデリカ姉様は相変わらず嬉しそうに抱きついてきた。
「もう!来てたなら早く言ってよー!」
「すみません、今から行こうと思ってました」
「なら、久しぶりの稽古ね!トールも皇帝と戦ったって聞いたし後で試合しましょう!」
さり気なく巻き込まれたトールだけど、不思議とバトル方面の方が抵抗なく受け入れてる気がする。
潜在的に好色ではないのだろうなぁ……バトルオタクの方がしっくりくるけど、イケメンで面倒見が地味にいいトールを面倒な性格のお嬢様方は放っておかないだろうし、奴も大変だなぁ。
俺にはそういうモテ要素はなくて少しホッとしているよ。
まあ、地位だけなら割とモテ要素あるのだけど……顔に釣られる人と権力やお金に釣られる人、果たしてどちらが良いのかは不明であった。
とはいえ、俺の婚約者達はそれらには当てはまらないし、奴の嫁もそうなので人生とは分からないものだ。
訓練場まで姉様に手を引かれていると、その様子を相変わらず微笑ましそうに見守られるけど、仲良しなのは間違いないので構わないかな?
「そういえば、ダンテ義兄様は?」
「任務で少し出てるわよ」
フレデリカ姉様の婚約者である、ダンテ義兄様は留守なようだ。
「では、後で帝国土産を渡しておいて貰えますか?」
「ええ、分かったわ。ちなみに私にはあるのかしら?」
「無論ですよ」
その言葉に満足気なご様子のフレデリカ姉様。
姉だけど、こういう所は年下に見えて可愛らしくもあり、ダンテ義兄様が惚れるのも頷けた。
というか、ウチには魅力が高い人が多すぎる気がするけど、俺がゼロな分バランスは取れてるのかな?
「じゃあ、行くわよ!」
「お願いします」
そんな悲しいことを考えていると、フレデリカ姉様との稽古が始まる。
手加減されてもまだ強いフレデリカ姉様に何とか食らいつこうと粘る俺。
勝てないのは分かるし、俺に才能がないのも知ってるけどこうして本気で稽古をするのは楽しい。
汗をかいても、感じる辛さは鼓動が早くなったりといった心地よいものばかりだ。
普段の運動不足解消にもなって、凄く充実した気持ちになれるし、やっぱり体を動かすの悪くないな。
「また上手くなったねエル!いいじゃない!」
そして、さり気なく褒められると嬉しくてやる気がでる。
フレデリカ姉様はあまりその手のことが得意でないように見えて、こうして要所要所で人の心を掴むのが上手いので凄い。
それにしても、こうして稽古しても汗一つかかないフレデリカ姉様は相変わらず凄いな。
過酷な砂漠が多いこのシンフォニア王国でも、動いても汗一つかかずにいられるのはフレデリカ姉様やダンテ義兄様、後はサラッと俺の騎士のトールくらいだろう。
地味に父様もそのカテゴリーに入れるかもしれないが、俺は父様の実力をあまり知らないので何とも言えないところであった。
なお、マルクス兄様も結構凄いけど、やはり頭を使うことの方が得意なマルクス兄様も俺と同じで剣はそれ程でもなかった。
まあ、これで武芸にも秀でていたらマルクス兄様もそのうちシンフォニア王国を統一国家にでも変えそうな勢いはあるよね。
とはいえ、まるでダメな訳でもなく、普通に強いのだからそれを考えるとフレデリカ姉様やダンテ義兄様がどれだけの高みにいるのかが謎めいてくる。
なお、トールはトールというだけで説明がつくので例外だ。
そのトールは俺とフレデリカ姉様の稽古を見ながら、どこか呆れ気味だ。
何だよその顔は……俺は本気でやってるよ?
そんな、『またアホなこと考えながらやってそうなだなぁ』みたいな面はやめなさい。
というか、何故か奴は婚約者よりも俺と以心伝心出来てしまうので本当に謎の存在と言えた。
どうせうさ耳ならアイリスの方が可愛くて素晴らしいので、チェンジで。
そうして、俺は久しぶりにフレデリカ姉様の稽古を受けたのだが、魔法ばかりなのでたまには運動もいいよね。
ジムのような感覚で頼ってしまうけど、フレデリカ姉様も楽しそうだし悪くないと思いたい。
まあ、でも客観的に見ると稽古中の俺の姿はあまりカッコイイものではないので婚約者には見せられ……いや、アイリスは見てるな。
むしろ、『真剣なエル様素敵です!』とか言われて、照れたのは良い思い出だ。
うん、やはりアイリスは天使だね!
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