第173話 父の頼み

「父様、お仕事中すみません」

「エルか?入るといい」


みのりんと戯れてから、俺はそのまま父様の執務室を訪れていた。


前に用事があると言ってたのを思い出したのだ。


許可を貰って、部屋に入ると相変わらず渋くてカッコイイ父様が持っていた書類から視線を外して俺にその目を向ける。


「わざわざ来てもらってすまないな」

「いえ、丁度いい休暇になったので」

「そういえば先日はアマリリスを里帰りさせたと聞いたが……楽しめたようで何よりだ」


義娘であるアマリリス義姉様はすっかり父様や母様にも馴染んでおり、実の娘のようになっているのがまた凄い。


本当にアマリリス義姉様のあのコミュ力を俺も少しは見習って……いや、見習っても無理かもしれないな。


あんなに純真な心を持ってない心が汚れてる俺には真似は出来ないし諦めよう。


「アクセル殿のエスコートも大変だったろう」

「いえ、俺はそれ程は」


どちらかといえば、アクセル義兄様とレインのイチャラブを皇帝陛下とのバトルの翌日に一日見ていたトールの方が重症なので、俺はそこまでではなかったりする。


そのトールはさり気なく外で護衛をしているけど、午前中だけでかなり回復の兆しが見えたようで何よりだ。


「何にしても、我々もエルに頼りきらない連絡体制を早急に用意しないとな」

「父様、俺はそんなに負担でもないので、遠慮なく頼ってください」


正直、タクシー程度ではまるで疲れないので、負担でもなかったりする。


とはいえ、そんな俺の余裕が伝わるかといえば……まあ、若干は伝わってるとは思うけど、俺のやる気に関しては家族としては『気持ちは受け取っておく』という大人の対応をしたいのだろうとはよく分かる。


俺が目指す見本はそれを素で言える父様たちみたいな懐の大きさがあれば最高だよね。


それに家族の役に立てるのは凄く嬉しいから、バンバン……とは言わないけど使って貰っても構わないのだけど、それを察したように父様は苦笑気味に言った。


「気持ちは嬉しいが、エルに頼りきりでは何かあった際に不都合が生じる。国家としてはそれらに事前に取れる策を講じておくことは大切なのだ」

「それもそうですね」

「それにだ、頼りきりではあるが、大人として可愛い我が子を道具のようには使いたくないのだよ」


……あの、素でそれを言える父様カッコよすぎでは?


マルクス兄様といい、どうしてこう俺の知る男達はカッコイイのだろうか……イケメンでも残念な人が少なすぎでは?


中身も良くて、外見もイケメンって完璧すぎなのですが……まあ、それを言ったら俺の周りの女の子も優しくて可愛い子が多いので、きっと俺が最も心が汚れており容姿が微妙な不良品なのだろうと、悲しい納得をしてしまう、レベルだ。


うむ、自虐は何も生まないし止めておこう。


「そういえば、アマリリスの帰郷の際に、帝国の皇帝とは話したか?」

「ええ、少し」

「どんな印象であった?」


どんな……そう聞かれると困るなぁ。


覇気があって、娘が大好きなお父さんでもあって……ふむ、真逆なイメージばかりになる。


「そうですね、強いて言うなら、父様やダルテシア国王……義父様とは少し系統が違っても、守るものをしっかりと持ってる方に感じました」

「守るものか……やはり手強い相手のようだな」


父様と皇帝陛下は何度か話してるはずではあるけど、まだ全て読み切れてなかった部分もあるのかもしれない。


俺の言葉で補足をしつつも、恐らくは前日までにマルクス兄様やアマリリス義姉様にも情報を求めてるはずだし、それらが決めてかな?


何にしても、こういう姿を見ていると、俺にはやはり王位は継げそうにないと断言できた。


父様やマルクス兄様、義父様やシュゲルト義兄様、そして皇帝陛下と、俺なんかとは人間としての器の格が違うと身に染みて分かるし、そもそも王位を継ぐ気もないので、小物な俺はマルクス兄様の補佐を頑張るとしよう。


「さて、それで呼び出した要件だが……実はな、父上と母上……お前の祖父母からお前に呼び出しがあったのだ」


どうやら、用事のあるのは父様ではなく、何度か会っている祖父母らしい。


「そういえば、お祖父様とお祖母様は連絡用の魔道具を持ってないのでしたね」

「ああ、困ったことに受け取って貰えなくてな」


祖父曰く、『それで簡単に頼られても困る』のと、『無くても生きるのに支障はない』とのことで、連絡も基本手紙のやり取りであった。


「では、お祖父様とお祖母様の元に向かえば大丈夫ですか?」

「頼む。それとだ、これも持って行ってほしい」


そうして渡されたのはお酒であった。


しかも、この国で作られている、高価な限定品のもの。


「お祖母様へのお土産ですか?」

「ああ、年に一度の楽しみらしい」


意外なことに祖父はお酒が飲めないので、飲むとすればお酒が好きな祖母だろうと思って予想するとビンゴだったらしい。


「分かりました、しっかりとお渡します」

「苦労をかけるな」

「頼られて嬉しくない息子は居ませんよ」

「言うようになったな」






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