第143話 興味の種

「そんなつまらない話よりも、僕はエルに興味があるんだよ」

「興味ですか?」

「うん。あ、勿論レインに関連する話はつまらない内には入らないから、惚気とかも聞いて欲しいんだけど……ダルテシア王国に来た目的の中でレインとの観光以外の要素だと、一番気になってたのがエルという人物についてなんだ」


そんなに興味を引かれるような存在ではないと思うが……こんなつまらない陰キャに何を見出したのやら。


「そうなんですか。それじゃあ、アクセル義兄様の惚気を聞かせて貰いましょうか」

「あれ?アッサリしてるね。というか、聞いてくれるの?」

「ええ、そういう人の幸福話は楽しいですし、知人の惚気はネタにも使えて、個人的にも楽しめるので是非に」


恋愛小説のネタにも使えるし、俺には体験できない恋愛談なんかは楽しい話題なので、惚気というのは個人的には嫌いではなかった。


最も、クレアの惚気を聞いていると、トールの大変さが浮き彫りになって、少しやるせなくなるが……奴は尻に敷かれるくらいで丁度良さそうだし、スルーしておく。


決して、見捨てた訳ではないので、そこだけは間違えないで貰おうか。


「ぷっ……くくく……」


なんて、思っていると、俺の答えにアクセル義兄様は笑いを堪えるように、大層楽しげな様子を見せていた。


何か変なこと言っただろうか?


「ふふふ……ごめんごめん。笑うつもりはなかったけど、エルは予想以上に面白い子だと分かったから、嬉しくてね」

「そうでしょうか?」

「だって、他人の惚気を聞きたいなんて、私利私欲の塊みたいなうちの国の貴族から出てくるワードじゃないし、色恋に価値を見出す輩とも違う返答なのがまた面白いよ」


よく分からないが、気に入られたのかな?


「確か、エルは小説も書いてるんだよね?」

「ええ、まあ。私的に書いてたものが、気がついたら売り物になってたんですがね……」


リリアンヌ姉様のために書いていた、ささやかなものから、いつの間にやら書店に並ばれるようなレベルになってたのには、個人的にもびっくりしたものだ。


きっと、前世では出版に届くかすら不明なものだろうに、先駆者だからか、それなりに稼がせて貰えてしまって居るのは何とも皮肉な話ではあった。


「少し読んだけど、中々面白かったよ。レインなんかすっかりハマったようでね。君に会ったらサインを貰いたいって言ってたくらいだよ」

「アクセル様、そのことは……」

「ごめんごめん、ついポロッとね」


サインが欲しいなんて、まるで有名人のようだが、俺のなんかで宜しいのだろうか?


「それで、後でいいからサイン書いてくれる?僕も一応欲しいかも」

「それは構いませんが……せっかくですし、今度出す予定の新作にでもサインしますか?」

「あれ?また新しいの出るの?」

「ええ、まあ」

「ペース速いんだね。小説ってそんなに速く書けるものなの?」

「いえ、ストックのようなものがあるから、少し速く思えるだけですよ」


暇な時間に思うままに書いていたのだが、リリアンヌ姉様がそれら全てを検閲済みなので、順番に世に出しているのだが……本当に趣味の範囲で書いてるので、そのうち書けなくなりそうで怖い今日この頃。


完結はさせたいものだが、それが難しいのが創作というものなのだろう。


「新しい料理に、新しい娯楽、エルの知識や思いつきは宝の宝庫だね」

「たまたまですよ」

「だとしても、需要があるのだから、誇っていいと思うよ」


前世の知識からのものが大半なので、胸を張るのは少し気が引けるけど、褒められるのは悪くない。


俺は褒められて伸びる子……のはず。


今世ではその傾向が強いと思うので、恐らくそう。


前世?


それは、比べるのも虚しくなる程の扱いなので今世の俺を見て欲しいかも。


「まだもう少し時間あるかな?エルの話をもう少し色々聞きたいんだけど」

「そこまで大した話は持ってませんよ?」

「いいから、飽きたら勝手に僕が惚気けるから、気にせずに話してよ」


そう言われては仕方ないので、俺はある程度話せる範囲で今世の出来事を語る。


転生したことについては、リーファ以外に知れる環境にない人には自ら話す気もないので、それ以外の、トールとの出会いとか、婚約者達とのデートの話なんかを適当に話すが、俺の話にアクセル義兄様は何とも楽しげに耳を傾けてくれていた。


自分で言うのもなんだが、話の上手な方ではないので、スムーズに話せているのは、アクセル義兄様の聞き上手の賜物なのだろうと結論付ける。


しかし、容姿、性格、地位、各種ステータス飛び抜けている帝国の第8皇子様……なんと言うか、本当にスペックが桁違いなお人だと思ったものだが、本人的にはそんな物よりも、レインとの平穏な暮らしだけを求めている辺り、中々世の中とは上手くできてるのかもしれない。


持ちすぎているくらいの、アクセル義兄様が欲するのがレインとの平穏な暮らしだけ……うむ、なんと言うかそういう真っ直ぐな姿勢は男として尊敬してしまう程ではあった。


まあ、何にしても、また新しいイケメンとの交流で、俺は目指すべき背中が増えたのだろうと納得しておく。


先は長いなぁ……。








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