第140話 予期せぬ来客
「子供達、元気そうで良かったよ」
「ああ」
孤児院で子供達と戯れてから、少しだけ大人同士の話し合い(俺はまだ少年とも呼べる年齢だが、実質責任者に近いので問題ないだろう)をして、帰路に着く。
やはり子供というのは可愛いものだと思いつつも、毎日相手にしてたらきっと体力持たないだろうなぁ……と、世の中の親の苦労に心底尊敬しながら、そういう子供を導けるような人間になりたいものだとしみじみ思う。
バルバンも心做しか表情は満足気で、父性愛を持て余していたものだと思われる。
「バルバン、もう少し孤児院関係の仕事渡そうか?」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
やんわりと辞退されてしまうが、無用な気遣いなのは百も承知。
それでも、バルバンの様子を見てるとそんな言葉が出てしまうのは、我ながら何とも無遠慮な配慮だと思えて仕方なかった。
うむ、我ながらまだまだ、前世のコミュ障気質からは脱却しきれてないのだろう。
「この辺は夜のお店もちらほら出来てるらしいね」
「ああ、エルダート様の管轄下だし、合法で安全な店しかないがな……気になるのか?」
「それなりにはね」
とはいえ、それは夜のお店で女の子と遊びたい……なんてそんな男心ではなく、単純に俺の管理下でヤバいのが混じってないかという単なる心配に過ぎなかった。
「心配することはないと思うがな。信頼の出来る昔の伝手で人も集めたし、第2王子の管理下という看板の意味はデカい。それにここの連中は皆、エルダート様を慕ってるし、早々面倒事は無いと思うぞ」
バルバンもその辺は承知してるのか、からかうことなく言葉を続ける。
「そっか。ならいいよ。その辺はバルバンの方が慣れてるだろし、ある程度任せちゃうよ」
夜のお店と言っても、綺麗なお姉さんがお酌をしてくれるような店から、少し大人の世界の店まで色々あるし、素人の俺が全て把握して管理するよりもある程度その手の知識のあるバルバンなどに任せた方が余計な揉め事も少ないだろう。
というか、俺は今世は勿論、前世でもその手の店に行ったことないし、この世界と前世の世界で違いもあるだろうし、大人のバルバン達の方が適任とも言えた。
適材適所だよね。
「構わないが……」
「何か気になることでも?」
「いや、何と言うか……エルダート様はあんまり気にしてないんだな。その年頃だとこの手の話には色めきそうなものだが……」
年頃の男の子らしく、もう少し異性に対して好奇心でも抱いた方がいいのだろうか?
全くないとは言わないが……
「俺には素敵な婚約者が3人も居るし、他の女の子はちょっとね。それに、その手の仕事で働いてる人達相手にそういう気持ちにはなれそうにないかな」
悪い意味ではなく、純粋に夜の仕事をしてる人達はプロという感じで、尊敬こそすれど、抱きたいとかそういう気持ちにはなれなかった。
あとはまあ、前世からの拗らせというか、本当に好きな人とだけそういう事はしたいと思うのだろう。
……まあ、毎日クレアに絞られているトールを見てるとどことなく不安も無くはないが……俺の可愛い婚約者に限って、クレアのような事は起こるまいと前向きに考えておく。
「……相変わらず、年に似合わぬ言葉だな」
「バルバンこそ、たまには遊んだら?女の子達もバルバンにならサービスするだろうし」
「遠慮しておく。嫁さんが亡くなってから、その手の欲がスッパリと消えてな。これでも嫁さんが生きてる頃は毎晩とは言わずとも、結構遊び歩いて、その度に嫁さんに怒鳴られてたんだが……今にして思えば馬鹿なことしてたよな」
どこか懐かしそうにするバルバン。
確かにバルバンは夜のお店とか好きそうではある。
完全に偏見だけど、慣れてる感が半端ない感じ。
「エルダート様もその手の店に行くなら、嬢ちゃん達にバレないように気をつけることだ」
「行かないよ。というか、そんな事をすれば俺の婚約者達の場合、嫉妬よりも悲しみを覚えそうだしね」
確かに嫉妬するアイリスやレイナ、セリィは少し興味があるが、それ以上に他の女の子と寝たなんて冗談でも言えばかなり傷つきそうだし、嫉妬する姿を見たいがためにそんな無用な傷を心に追わせたくないので、絶対に行かないと断言出来る。
「へー、好色って噂はデマなのかな?存外、婚約者想いなんだね」
ふと、俺たちの会話に割り込んでくるように、後ろから声が聞こえてくる。
振り返ると、そこにはワインレッドの髪の青年とそのお付に思えそうな美人なメイドさんの2人が俺たちを見ていた。
実は、この二人らしき視線は視察のためにこの旧スラム街に来てからずっと感じていたのだが……こちらに何かする訳でもないし、悪意のある視線にも思えなかったので、用事があればそのうち話しかけてくるだろうと放置していたのだが、ようやくという訳だ。
しかし、この青年はどこかで見た覚えが……って、ああ、そうか。
「お久しぶりでございます、アクセル様。我が兄であるマルクスとアマリリス様のご成婚を祝う祝典以来になりましょうか」
「覚えてたんだね。うん、久しぶりエルダート。エルって呼んでもいいかな?」
気さくにそう笑うその青年は、我が兄であるマルクス兄様のお嫁さんになった、アマリリス義姉様の実家……帝国の第8皇子のアクセル・マチティヴィア殿下その人であった。
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