第119話 セリィのご馳走
「あむあむ」
可愛らしく、俺の首筋に吸い付くセリィ。
血の摂取は終わったはずだが、甘噛みを続けているのだろう。
「セリィ、飽きないの?」
「……あふじはおいひい」
「喋る時は口離そうか」
はむはむ、もごもごとしているので、何を言ってるのか、何となくしか分からないかった。
というか、喋りながらはむはむ、もごもごしていると擽ったくなる。
「……主は美味しい」
「食べ物ではないけどね」
「……こうしてるだけで、楽しい」
「そう、ならいいけど」
体勢的には、座っている俺の膝の上に跨って、首筋を甘噛みしているので、誰かに見られたら間違いなく誤解されるのだろうが、屋敷の人間はセリィのことを知ってるし、こうして血を摂取する必要性も理解しているので見られても問題なかったりする。
それに、セリィは婚約者だしね。
なお、アイリスやレイナは羨ましがってくれたりすらしい。
好かれてるって嬉しいね。
その分他のところで、フォローしているがそんな訳で今は室内には俺とセリィしか居なかった。
セリィへの血の摂取の時間は大体二人きりにるのだが、その時がセリィが一番甘えてくるタイミングかもしれない。
……いや、寝てる時もそうか?
何なら食事の時も……うむ、割と傍に居る時は甘えてくる傾向は強いかもしれない。
それを見て、触発されたようにアイリスやレイナも甘えてくるので、セリィの貢献によって婚約者達の俺への甘え方が上手くってきたように思える。
そう考えると悪いことはないかな?
「……主、何だか最近、益々美味しくなってきた」
「そう?」
「……うん、もう主無しじゃ我慢できない体になってきた」
誤解を招きそうだが、そこまで美味しいのだろうか?
自分のことだし、生憎と血を飲んでも美味しいとは思えないので分からなかったりする。
「そっか、まあ、俺が死なない範囲なら好きに飲んでいいから」
「……主は絶対死なせない。私が守る」
「なら俺は可愛い婚約者のセリィを守るよ」
とはいえ、ハーフヴァンパイアのセリィは身体能力だけで言えば俺よりも高いし、ヴァンパイア固有の特殊能力もいくつか使えるので、そうそう危険はなさそうだが。
多分、俺の婚約者の中で最も戦闘力があると思われる。
アイリスは亜人で身体能力自体は高いはずだが、本人の気質なのかそこまで戦闘力には秀でてないし、レイナは俺に出会う前は死属性の魔力を纏っていたが、属性変換の魔法で今は生属性に変わっており、その生属性の魔力は戦闘には無論不向きな上に、本人もその手のことは苦手な普通の女の子なので、戦闘力は皆無であった。
まあ、別に日常的に戦うような仕事をするつもりはないし、戦闘力なんて無くてもいいけどね。
護衛も居るし、セリィには俺よりも極力二人を守るようにお願いしてるから、その辺も心配してなかったりする。
「……守られるのは嬉しいけど、私の方が主を守りたい」
「なら、お互いに守りあおうか」
「……うん、約束」
そう言いながら、今度は耳を甘噛みしてくるセリィ。
「……それが約束の行為なのかな?」
「……主も私にして」
「俺もセリィの耳を?」
「……うん」
よく分からんけど、とりあえず同じように、セリィの小さい耳を軽く甘噛みしてみる。
「……あぁん」
……そんな悩ましげな声は止めて頂けませんかね?
なんか、イケないことをしてる気になるから。
「これが、ヴァンパイアの約束の方法なの?」
「……さぁ?」
我流であったようだ。
まあ、その辺は別にいいけど。
「……主、私は美味しかった?」
「極上の美味かな?」
味なんて分からないけど、想像で答える。
「……私と同じ」
「それは良かった」
「……主、成人したら別の意味で夜に食べてね」
そんなお誘いを受けるが、数年早い話ではあった。
数年なんてあっという間だが……まだまだ婚約者を楽しむのも悪くないだろう。
「なら、その時を楽しみにしてるよ」
「……うん、アイリスとレイナ様も一緒に召し上がって」
ここで、他の婚約者のことも気にかける辺り、仲良くなってきた証とも言えた。
ここ数年で、俺の婚約者として二人と接する時間も長かったし、いい傾向だろう。
そうして、その後もしばらくセリィに首筋を甘噛みされて、甘えられてるが……それを悪くないと思える辺り、俺もすっかりセリィに慣れたのだろうと思うことにする。
なお、こんなやり取りの間に増血魔法を同時に使ったりもしているが、その辺も慣れてきたので血を吸われすぎても倒れない自信があったりする。
変な慣れだが、セリィは時たま俺の血が美味しすぎるのか、許容量を超えてしまうこともたまにあるので、この程度は慣れていた。
本当に死ぬラインまでは行ったことがないので、問題はないが血が一気になるなる感覚は中々に凄くて、これに慣れては行けない気がしたが……今更とも言えた。
何にしても、甘えてくる婚約者は可愛いし、アイリスやレイナとはまた別の魅力のあるセリィにここ数年ですっかりと惹かれてしまっていたことは否定出来ないでいた。
結論、セリィの好意に対して、俺は彼女に惹かれて、徐々に惚れてきたのだろうね。
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