第120話 レイナの癒し
「はぁ……やっぱり、レイナの膝枕は落ち着くね」
「ふふ、なら良かったです」
自室にて、レイナと二人きりの時間に、俺は彼女に膝枕をしてもらっていた。
いつもは俺や他の婚約者、あとはメイドさん達がレイナサポートをするのだが、こういう時はその分の反動なのかレイナに甲斐甲斐しくされることが多い気がする。
「エルダート様は、本当に綺麗な髪をしていますね」
俺の頭を撫でながら、そんなことを言うレイナ。
「俺は、レイナの髪も綺麗だと思うけどね」
「本当にお優しいですね、エルダート様は」
そう微笑むレイナ。
なんというか、レイナとアイリスから感じる母性に俺は抗える気がしなかった。
これがバブみか……うむ、確かにこれは悪くないな。
「いつもは、エルダート様は立派に頑張ってるのですから、私やアイリスさん、セリィさんの前ではもっと甘えて下さっていいんですよ?」
「そんなに頑張っては……」
「関わりのある国の文化やマナー、歴史の勉強に、お仕事の関係で、お父様やお兄様、お義父様やお義兄様のお手伝いに、貴族として色々と動いたり、新しいお料理や小説、絵本なんかも描き始めて、他にも私達の知らない合間に、人助けしたり、私達のために色々と動いてくださったりと、エルダート様は凄いですよ」
……改めて並べれると、確かに頑張っている気になるが……そんなことはないと思う。
勉強に関しては、知らないことを知るのは前世から好きだったし、苦ではかったりする。
父様達の手伝いもそんなに大層なものじゃなくて、臨時のタクシーやちょっとしたお使いクエスト程度だし、貴族としての行動もそこまで頻繁というわけではなく、仲良くなっておいた方が良さそうな人達を見極めて、今後出来るであろう、俺の子供たちのための人脈作り程度のものだし、それも大したことは無い。
料理、小説、絵本は趣味だし、売るのは任せてるのでそちらも気ままに作ってるだけ。
人助け……は、別に進んではやらないけど、目の前で見かけたら見て見ぬふりが出来ずお節介程度はしてるかも。
婚約者達に関しては、好きな人のために色々したいだけなので勿論、楽しくやってる。
……うむ、我ながらそう整理すると別に大変なことはしてないよな。
レイナの俺への過大評価が身に余るが……この子は純粋だから、そうやって俺を褒めてくれるのだろう。
「エルダート様は、自分を低く見すぎです。もっと、自信を持ってください」
「自信ねぇ……」
「少なくとも……私やアイリスさん、セリィさんにとって、エルダート様はカッコイイ最高の旦那様ですよ」
……それで居ながら、俺の本質を見抜いてそうなレイナさん。
低くか……自分では客観的な評価のつもりだけど、でも卑屈な部分は無くはないかも。
前世の部分を引きずってるというか、無意識にそちらの意識が強くなってしまっていたのかもな。
何にしても、こうして誇ってくれる人が居るなら、もう少し誇れるよう自分であろうと頑張れる。
「……ありがとう、レイナ」
「いえ、事実ですから」
そう言いながら、俺の頭を優しく撫でるレイナ。
レイナやアイリスは俺に甘えるよりも、俺に甘えられる方が楽しいのか、こうして二人きりの時に俺の心を解きほぐそうしてくれる。
ちなみに、セリィは甘える専門だったりするが、それはそれでいいものであった。
「レイナ、少し眠たくなってきた」
「では、このままお休みください」
「疲れない?」
「ほとんど、感覚がありませんから、大丈夫ですよ。それに、エルダート様をこうして独占出来る時間を堪能したいのです」
レイナは足が不自由だ。
原因はよく分からないけど、まだまだ俺の魔法では治せそうにない。
本人曰く、足の感覚が無く、動かせない自分の体とは別の部分とのこと。
いつかは治して、自由に歩いて貰いたいものだ。
レイナが小さく子守唄のようなものを口ずさむ。
レイナの柔らかい感触と温もり、そして心地よいメロディーで俺は次第に瞼が重くなっていく。
何とも心地よい眠りへの入り方だ。
頭を撫でる、レイナの手つきもそれを助長させて、俺はいよいよ本格的に眠りへと落ちていく。
アカン……カッコイイ所を見せたいのに、レイナもアイリスも俺を解きほぐして益々惚れさせてくる。
とはいえ、この誘惑には勝てないわなぁ……
「エルダート様、おやすみなさい」
チュッと、俺の頬に控えめに口付けをするレイナ。
彼女なりの大胆な行動を嬉しく思いながら、俺はしばらく眠りの世界へと旅立つのであった。
しかし、この歳にしてこの包容力……レイナさん、恐ろしい子。
今だって主導権握られてそうなのに、結婚後は絶対適わない気がする。
婚約者全員に言えるけど、俺を立てつつ、ダメな時は諌めてくれる理想的なお嫁さん……うん、我ながら贅沢だが、こんな素敵な婚約者達を手放しくないので、愛想を尽かされないようにもっと内面だけでもイケメンになろう。
外見はもうここから変貌することは少ないだろうし、せめて性格だけでも美形にならねば。
そんな俺とは裏腹に地で性格の良い婚約者達に癒されつつ、そんなこと決意するのであった。
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