第107話 ヤグラク商会
「これはこれは、ようこそお越しくださいました、殿下」
「やあ、久しぶりニッケル」
スラム街の人材発掘と、ついでにダルテシア王国の孤児院にもそれなりにテコ入れをした翌日、可愛い婚約者達と一緒に居たいが移動ばかりで、疲れるかもしれないので、イケメン2人を引き連れて俺は前にハーレムパーティーを助けた時に一緒に助けた、ヤグラク商会の会長のニッケルを訪ねていた。
既に戻っていたらしく、丁重に出迎えてくれるニッケル。
「この前は助けて頂き、本当にありがとうございました」
「気にしなくていいよ。たまたまだし」
「ご謙遜を。王都に着いてからもご活躍だったと風の噂で聞きましたよ」
なんとも情報が早い事だが、レイナのことか、スラムのことでも聞いたのだろう。
まあ、商人は情報が命らしいし、大国の大商会ならこの程度のことは知ってて当然かもしれないな。
「それで、お屋敷への家具などをご希望で?」
「うん、良いのがあればなぁって思ってさ」
「ええ、ご用意できております」
俺が訪ねてくる目的も把握していたようで、俺好みの家具や調度品なんかを用意していたニッケル。
果たしてどこから俺の嗜好が伝わったのやら……でも、あまり派手なものは好まないので有り難い。
値段もかなり割り引いて貰えて助かった。
まあ、定価でも全然買えるのだが、安くなるのならそれに越したことはない。
特売とか、セールとか魅力的に感じるのは小市民的なのかもしれない。
「ありがとう、助かるよ」
「いえいえ、この程度では返しきれない恩ゆえ」
本当に気まぐれで助けただけなのだが……人助けというのも、悪くないかもね。
「そうそう、実は殿下にお見せしたいものが」
「何かな?」
「こちらの品なのですが……」
そうして、見せてきたのは、小さなブローチであった。
青い綺麗な色の石と、どこか涼しさを感じさせる装飾が見事なそれだが……何故かそれを見てると懐かしさと安心感を感じる。
『エルさんエルさん、それ!』
『え?リーファ、何か知ってるの?』
『それは多分、水を司る神の力が宿ってます!』
な、なん……だと……!?
俺が最も敬愛して止まない水、それを司る神とは、即ち最も位の高い(俺の中で)神様と言えた。
「……ニッケル、これをどこで?」
「実は、少し前の商談で手に入れまして。これを見た瞬間に、何故か殿下にお渡しする以外に方法が思い浮かばず」
何かは分からないが、俺に必要と判断したと話すニッケル。
「よし、言い値で買おう」
「いえ、こちらは無料で」
「とはいえ、高かったでしょ?」
「それが、前の持ち主の手を離れてから価値が下がっていたらしく、ほとんど無料で買い叩けたのです」
不思議そうにそんな説明をするニッケルだが、リーファ曰く、正しい持ち主以外には真価を発揮しないらしい。
この手の道具は、神が自らの力を分け与えた……所謂、神器と呼ばれる道具で、絶大な神の力の一端を使えるそうだ。
ただ、無論神器との相性もあって、例え認められても適性が低いと扱いきれない代物らしい。
「じゃあ、貰ってもいいかな?」
「是非どうぞ」
とはいえ、水の神様の神器というのは物凄く惹かれるので、俺はブローチを手に取る。
すると、その瞬間にブローチが俺の体に馴染むように全身に未知なる力が駆け巡った。
それらは淡い光を放っていたが……数秒で落ち着いて馴染んでいく。
『エルさんは適応出来たようですね』
『そうなの?』
『はい、余程相性が良いのか、神器が違和感なくエルさんに同化してますね』
左胸にブローチを付けると、何となくしっくりくる。
さて、何が出来るようになったのかと思っていると、頭の中に神器の情報が流れ込んできて、理解する。
結論からいえば……物凄く良い貰い物だ。
この神器の力は、『あらゆる水を生成出来る』という能力と、『全て水を操り制御する』という力を持っているらしい。
他にも細々としたものはあるが、前者の力が大きい。
そう――つまり、これさえあれば、あらゆる土地の水や、人間界にはない貴重な水も生成できるのだ。
そして、なんと言っても温泉の水質まで変えられるのだから、これ程素晴らしい力もないだろう。
しかも、指輪に蓄積されている範囲だけでもかなりの種類の水が作れて、神の水……所謂、神水をも作れるそうだ。
一滴作って舐めてみると、余りに現実離れしたその味と喉越しに思わず天にも登る気持ちになるが……神様ってこんなに良い水飲めるのか……凄いな。
「殿下、それでどうなんですか?」
そう訪ねてくるトールに海水を作ってやると、不思議そうにしながらも舐めてみて、塩辛さに顔を顰めるトール。
その反応が見たかったのだよ。
そうして、素敵な貰い物をすると、俺は他にも気になる商品と……あと、職人さんなども紹介してもらう。
婚約指輪の作成もそろそろしたいので、材料を集めてそれらを使って最高の指輪を作って貰おう。
可愛い婚約者達のためにね。
こここそ、男の甲斐性の見せ所だと張り切るが……材料は買って集めるよりも自分で狩った方が良さそうなので今度狩りに行くとしよう。
トールやバルバンの力を借りたいが……これは、俺の婚約者のためなので、2人は護衛として来てもらうだけになるだろう。
その方が楽しみも増えるしいいけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます