第96話 本拠地
「お、あそこだね」
王都から移動することしばらく。
目立たない少し端の方にあるそこには、いかにも普通な感じの人が数人でたむろして座っているが、その様子は休憩という訳ではなく、臨戦態勢という感じのガチな見張りであった。
感知魔法による感知で、内部には情報通り手練と思われる100人くらいの精鋭が居るようだが……中でも一際目立つのがおそらくボスだろう。
「さて、じゃあ行くとしようか」
「殿下、まさかこのまま入るとか言いませんよね?」
「2人に自信が無いなら隠れて入ろうか?」
そう尋ねると特に異論がないようなので、俺はスタスタと歩き出す。
念の為に逃げられないように魔法で逃げ道は全て封鎖していくが、この人数差だし逃げるより制圧に来る方が考えられる。
「ん?おい、お前ら。ここに何か用か?」
「うん、ちょっとね」
「悪いが私有地でな。他所に行きな」
「そっか……分かったよ、『狂犬』さん」
その言葉に反応して俺に向かう刃が2つ。
ナイフらしい物で一気に襲いかかってきた2人の男だったが……片方をトールが、もう片方をバルバンが余裕であしらう。
うむ、やはり護衛が2人だと安心感が強いな。
クレアも護衛だが、如何せん、クレアにはなるべくアイリスやレイナを守るように頼んであるので、実質トール1人というのに変わりはなかった。
だが……今は違う。
上手いこと気絶させてから、ほとんど同時に残りも片付けるトールとバルバン。
にしても……バルバンもやはりとんでもないな。
あのガタイであの速さ……亜人のトールはまだまだ発展途上とはいえ、既にトールはかなりの実力を持っている。
それとほとんどタメ張れるこの実力……やはり、是非とも本格的に護衛をしてもらいたいものだ。
「……殿下、気付かれたようです」
「だな。どうする?」
そして、察知も完璧……マジで俺は要らないレベルだな。
まあ、見学も悪くない。
「当然、乗り込むよ」
「はい」
「了解」
その言葉に頷くと俺の後ろに従うように着いてくる2人。
前に居た方が対応は楽そうだが、2人の場合そこまで間合いは関係ないのだろう。
それだけ反応速度も反射神経も一級品だし。
「何者だ!ぐはっ!」
「こいつ!がっ!」
……いや、というか、ガチで強すぎじゃない?
ワンパンで黙らせるから、世界観を間違えてる気がする。
『本当に、過去の英雄には及びませんが、お2人は強いですね。特にトールさんはもしかしたら英雄の、領域にも入れるかもしれませんね』
『やっぱり?』
『はい、亜人だからでしょうか?でも、弱い亜人も多いので資質があるのでしょう』
植物の精霊のリーファのお墨付きともなれば安心だろう。
というか、トールさんやっぱり規格外だとは思っていたが、英雄認定にまで近いとは……本当に今世の俺は運がいいのだろう。
「……2人ともストップ。罠があるから解除するよ」
戦闘はほぼ2人に任せて、俺は途中にある侵入者用の罠の解除に尽力する。
思いの外強力な魔法トラップがあるので、向こうにもかなりの魔法使いが居るとみて間違いなさそうだ。
「ちなみに、2人は魔法使いに勝てそう?」
「殿下には勝てませんよ」
そのトールの言葉に頷くバルバン。
いや、俺なんてワンパンじゃない?
「普通よりも強い程度の魔法使いなら?」
「詠唱前に仕留めるのは容易いかと」
「だな。多少の魔法なら斬れる」
……脳筋だよ。
この人たち脳筋だったよ。
魔法を斬るとか、魔法使いにとって恐怖以外の何物でもないよね。
普通に考えたら無謀だが、確かに下位の魔法なら2人は余裕で捌ける自信があるのだろう。
うむ……俺には真似出来んな。
途中、拠点にあった隠し通路のような仕掛けもあったが、流石に二度目ともなると余裕で見極められたので解除も容易い。
それに……
『エルさん、これは恐く古代の魔道具を使ってるんだと思います』
『古代の?』
『滅びた文明の古い遺産というやつですかね?昔の方が人間の技術力は優れていましたから』
本当に知識チートと呼ばれかねないリーファによる説明をたまに受ける。
それにしても、こんなに俺に色々と教えて大丈夫なのだろうか?
人間に過度に関わって精霊として何かないかと心配していると、リーファはくすりと笑って言った。
『気に入った人間になら、こんな風にする精霊も結構な居ますよ。まあ、本当に珍しいですし、私もこんな風に加護を授けて、契約したのは本当に久しいですが、それだけエルさんとの親和性が高いのでしょう』
まあ、ペナルティとかないならいいかな?
前にリーファが契約していたのは女の子で、英雄と呼ばれていた存在らしい。
名前を聞くと、確かにこの世界の歴史に居た人で、本で見たことがある有名人であった。
そんな精霊と契約したの俺……うむ、深く考えてはいけないな。
目の前で一撃で沈んでいく男達に、気絶した瞬間に睡眠魔法も掛けて意識を強制的に奪っていくが……果たして、シュゲルト義兄様に頼んでおいた回収部隊が来るまでどれだけ時間が空くのやらと思いながら、先を進むのであった。
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