第97話 規格外の男達
「向こうは、ばっちり準備出来てるみたいだね」
罠の解除と迎撃のために出てきた者達を叩きのめす(前者は俺、後者はイケメン達)を繰り返すことしばらく、大きな広間の前で中に居る50人ほどの反応を確認すると俺は2人にそう声をかける。
思い他迎撃に出てくる人数が少ないと思っていたが、どうやらここで迎え撃つために最小限の足止めに徹していたようだ。
ただ、その更に奥……おそらく最奥と思われる場所にボスとその側近らしき2人の強い反応を感じるので、目の前にいる彼らで仕留めるか、ダメでも疲弊させてれば自分達で仕留められると確信してるように逃げる素振りはなかった。
自信満々だが、まあ、その自信に見合う強さを持ってそうだし、俺達には好都合なので待っててもらえると助かる。
逃げようにも俺が魔法で妨害してるし、念の為に転移を防ぐ術式も使っておいたが……空間魔法自体レアだと思い出したのは、全てが終わってからのことになると、この時の俺は知る由もなかった。
「50人くらいだけど、手助けは居る?」
「いえ、僕だけで十分ですよ」
「俺も半分受け持とう。早めに終わらせるに限る」
……聞くまでも無かったか。
「うん、じゃあ任せた」
そう言って扉を開けると、直ぐに正確に俺の額を貫こうとする矢が飛んでくる。
それをトールが剣で防ぐと、最初の矢に潜むようにして飛んできた2本目の矢がトールに向かうが……無論、余裕で捌いてしまった。
「ちっ!外したか」
「いい腕前だ。こんな組織よりも猟師の方が向いてると思うけどね」
「生憎と楽して稼ぎたいんでな」
「それは同感」
「いや、納得しちゃダメですよ」
トールに突っ込まれるが、楽して儲けたいはきっと人類にとっての命題だろう。
無論、そんなに世の中甘くないし、働くのも嫌じゃないから働く気はあるけど、社畜にならない範囲がいいよね。
そんなことを考えていると、ゾロゾロと囲い込むように並ぶ集団。
連携も取れるようで、中々に油断出来なそうだな。
「悪いが、ボスの所には行かせられないぜ」
「そこの白髪のガキは高値で売れそうだな」
「見たところ、どっかの貴族の子供だろうし、身代金もたんまりだな」
何とも正直なことで。
「殿下、モテモテですね」
「生憎と愛しの婚約者が居るので、御遠慮したいかな」
そんなことを思っているの先程の矢を放った弓使いの男が三度矢をつがえる。
それを見て、トールとバルバンが駆け出すと同時に3人ほど、トールとバルバンを無視して俺に飛びかかってくる男達の姿があった。
まあ、弱い奴から崩すのは定石だよね。
でも、残念。
ひらりと迫り来る手を躱すと、睡眠魔法で3人を寝かせる。
抵抗して、レジスト出来そうな気配もあったが……魔力量でいえばかなり多い俺からしたら、その程度の抵抗では無意味と言えた。
さてさて、2人はどうかなと思っていると、そこには地獄が出来ていた。
軽やかに駆け抜け、敵を一閃するトールは、こちらのことをまるで気にしてないように相手を蹂躙していた。
「――ふっ!」
「がぁ!」
「ぎゃああ!」
殺さないように手加減をしていても、ある時には上手いこと武器を握れないように指を落して、ある時は片足を落としたりと、割と先程までより手加減のハードルが低くなってるが、おそらく面倒になったのだろう。
まあ、別に殺さなければいいけど……殆どは気絶で済ませてるので、本当に厄介そうなのを優先してるのだろうと推察できる。
そして、バルバンの方もトールほど動いてはないが、1人づつ確実に仕留めていく。
「せやぁ!」
「ふん」
「がぎゅ!」
大柄なバルバンは素手で武器を壊しては相手を叩きのめすことが多かった。
ある者は地面に抉りこみ、またある者は顔から壁にめり込みオブジェと化す。
その様は、まさに怪力といった様子。
決して相手は弱くないのだが……如何せん、バルバンの場合背中にあるメイン武器の大きな大剣を使うと相手が半分になりそうなので、その自慢の力で叩きのめすのが楽なのだろう。
……それは分かるが、俺には真似出来ないな。
素手で剣を叩き折るような真似は怖くて出来なさそう。
魔法を使えばやれるとは思うけど、ほとんど強化無しでバルバンはそれらを行えてるので、やはり彼もかなりの規格外なのだろう。
「殿下、終わりました」
「こっちもだ」
そんなことを思っていると、先程の矢を放った弓使いの男をのしたトールと、同じく最後の剣士を倒したバルバンから同時に声が上がる。
気がつくとそこには無数の屍……のようにしか見えない、怪我人の山が出来ていたが、動きそうな者は居なかった。
念の為保険で睡眠魔法もかけておくが……起きる頃にはいつの間にか縛られて国の用意した牢の中での生活がスタートしてることだろう。
「よし、じゃあ、ボス戦と行こうか」
全く疲れてない2人に呆れつつも、俺はそう声をかける。
さてさて、どんな怪物が待ち受けてるのか楽しみですこと。
まあ、少なくともトールやバルバンに勝てる人が待ち受けてるとは期待してないけど、奥に魔法使いも居るようなので、そちらには興味があった。
あまり、他の魔法使いに会ったことがないので、果たしてこの手の組織の魔法使いの実力はどのくらいなのか、どんな人なのか……興味はあるが、まあ、とりあえず次で終わらせよう。
そう思いながら、2人を従えるようにして進むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます